糖質制限の危険性・・・低炭水化物/高タンパク質食は短期的に有益ではあるが、長期的にみて死亡リスクがあがる。日本では長期的視野は無視されている。

『長期間の低炭水化物ダイエットは死亡リスクが上がる』

低炭水化物/高タンパク質食(または高脂肪食)は、確かに短期的には体重コントロールに影響を与えます。一方で、長期的な安全性の評価はあまり知られていません。

日本ではこうしたいわゆる「糖質制限食」が流行してまだ数年しか経っていないため、その後の追跡調査はなされていません。そのため、長期的視野をいれずに、盲信してそのまま長期間実践する人も後を絶ちません。(自己責任なので別にいいのですが)

しかし、低炭水化物/高タンパク質食(または高脂肪食)を数十年も継続している人が多い欧米では、長期的な追跡調査が結構行われています。

そして、多くの研究では、死亡リスクが上昇するという非常にネガティブな疫学結果をもたらしています。今日は低炭水化物食と死亡リスクについてまとめておきます。

30~49歳のスウェーデン人女性42,237人を対象にした12年間の追跡調査で、低炭水化物/高タンパク質をメインとした食事をしている女性は、総死亡率の増加、特に心血管死亡率の増加と関連していたことが発表されています(J Intern Med. 2007 Apr;261(4):366-74)。

同研究者らはその後も、30~49歳のスウェーデン人女性43,396人対象の平均15.7年間追跡調査でも、低炭水化物/高タンパク質食が心血管疾患のリスク増加と関連していることを見出しています(BMJ. 2012 Jun 26;344:e4026)

同じくスウェーデン北部のヴェステルボッテン県の男性37,639人女性39,680人を対象とした追跡調査でも、やはり総死亡率と心血管死亡率の増加と相関していました(Eur J Clin Nutr. 2012 Jun;66(6):694-700)。

ギリシャによる、健康な男女22,944人を対象にした、1993~2003年の一般集団による別のコホート研究では、低炭水化物/高タンパク質食は、総死亡率の増加、特に心血管死亡率の増加と有意に関連していたと報告されています(Eur J Clin Nutr. 2007 May;61(5):575-81)。一方、炭水化物摂取量の増加は総死亡率の有意な減少と関連していました。

ハーバード公衆衛生大学による、健康な女性85,168人・男性44,548人(心臓疾患、がん、糖尿病の発症なし)を対象とした、男性約20年間・女性約26年間の追跡調査を行った研究では、動物性食品を主体にした低炭水化物食は男女ともに全死因死亡率の上昇と関連していたことを発表しています(Ann Intern Med. 2010 Sep 7; 153(5): 289-298)。

同研究者によるその後の研究でも、ナースヘルススタディ(1980~2012)や医療専門家追跡スタディ(1986~2012)の参加者131,342人を対象にした調査でも、動物性タンパク質食品がメインの食事摂取は心血管死亡率を向上させ、一方、植物性食品の食事摂取は全死因死亡率または心血管死亡率を低下させたことを発表しています(JAMA Intern Med. 2016 Oct 1;176(10):1453-1463)。

さて、(いつも言っていますが、)タンパク質の摂取そのものは大切です。しかし、タンパク質が大切であるからといって、高タンパク質食を長年継続することはかえって危険です。つまり、「タンパク質をきちんと摂取すること=高タンパク食」でもなければ、「=低炭水化物食」というわけでもないのです。

たとえば80歳以上の健康な高齢者を見てみると、お肉やステーキを他の高齢者よりもよく食べているイメージがあるかもしれません。しかし、これはあくまで貧食や低タンパクに走りがちな高齢者の中で、結果的に肉食が目立ったものであり、決して高タンパク食をしているというわけではありません。(平均的な高齢者の中では高タンパク食に見えるだけで、一般成人からすれば通常量というわけです。)

また、極度の栄養失調者や極度の免疫低下の人にタンパク質をしっかり与えれば短期的には回復します。ただし、これも短期的な治療の結果であり、このような極端な食事法をたとえば十数年も長期で行った場合に起こる結果とはまた異なるのです。

実際に、高タンパク質食を長年続けていると、やはり健康リスクに影響します。

スペインの大規模な研究では、高タンパク質食は全死因死亡率を増加させることを報告しています(Clin Nutr. 2016 Apr;35(2):496-506)。

南カリフォルニア大学の研究でも、高タンパク質食を続けている50〜65歳の人は、その後の18年間で全死亡率が75%も増加し、癌による死亡リスクが4倍増加したことがわかっています(Cell Metab. 2014 Mar 4; 19(3): 407-417)。また、65歳以上の高タンパク質食は糖尿病死亡率が5倍も増加しています。

 
弱ったカラダを回復させる短期的な治療食、体質をいったん改善させるのに利用する○○制限食などは、確かに有効です。しかし、こうした極端な食事法を長期で行うことは、以上の疫学調査を見る限り、安心できません。

治療中は自分の足りない部分をおぎなうと言う意味で仕方ないにしても、これらを長期で行うと、場合によっては死亡リスクも上がってしまうのです。

流行の食事法や、もっともらしい理論で引導する制限食など、もう一度俯瞰してみてください。大きくもてはやされて盲信してしまい、欧米の二の舞にならないことを願うばかりです。

参照:https://www.facebook.com/photo.php?fbid=1109921799188187&set=a.122416054605438&type=3&theater

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