東大は今や「滑り止め」になった?

リンクより引用します。

※※※以下、引用※※※

 日本の大学が危うい状況にある、と指摘する本が目立つようになった。本書『大学はもう死んでいる? トップユニバーシティーからの問題提起』(集英社新書)もその一つ。「クエスチョンマーク」は付いているが、危機感をにじませる。

 著者の苅谷剛彦さんは1955年生まれ。オックスフォード大学教授。吉見俊哉さんは57年生まれ。東京大学大学院情報学環教授。オックスフォードと東大の先生が徹底討論し、なぜ日本の大学改革は失敗するのか、問題の根幹に迫る、というのが本書だ。

(中略)

東大新聞が「蹴られる東大」の連載

 最近、東大を「滑り止め」にする受験生が少しずつ増えている。「第一志望」はハーバードやプリンストン、イエール、オックスフォードなど英米のトップ大学。「東大新聞」では彼らにインタビューした「蹴られる東大」というシリーズを連載しているそうだ。以下のようなショッキングな発言が続く。

「東大受験はアメリカの大学受験を許可してもらうよう親を説得するための条件だった」

「アメリカの大学では、全落ちの可能性もあったため、浪人を避ける意味合いもあって、東大を滑り止めとして受けた」

「東大に半年でも行っていろいろコネクションをつくっておいたほうがアメリカの大学を卒業して帰国した時、就職に有利だろうと判断した」

 「東大に半年でも・・・」というのは、海外の大学は秋始まりなので、それまでは一応東大に在籍しておくということなのだろう。

 吉見さんによれば、実際のところ、東大もハーバードも学部生のレベルはほとんど差がないという。英語さえできれば東大や京大に合格する子は、比較的容易にハーバードやオックスフォードにも合格するという。しかし、そのあとが問題だ。「東大とハーバードで、その優秀な子たちを育てていく教育の制度的な仕組みがまったく違います」。

 そして、さらに続ける。「日本の学生は世界で一番勉強しない、とよく言われます。実際そうなのかもしれませんが、それは日本の学生たちが不真面目だからとか能力がないからとかということでは絶対にありません・・・要するに、日本の大学は学生に真面目に勉強させるような構造になっていないんです」。

 理由もいろいろと挙げられている。大学の制度や仕組みに関するやや専門的なことなので詳しくは本書を読んでいただきたい。

 苅谷さんによれば、オックスフォードの現在の学長は、以前、香港の総督だった。実質的な学長である副学長は女性で、オックスフォードの出身ではない。その前の副学長は北米の大学の学長経験者だった。首脳陣の経歴自体が東大とはかなり違う。教員・研究員も28%がイギリス人以外だという。800年の伝統を持つオックスフォード大学。すでに「改革」が進んでいることをうかがわせる。

(中略)

東大独自のプログラム

 マイナスの話が続く中で注目の試みもあった。東大が独自に始めたグローバルリーダー育成プログラムだ。参加者は毎年、東大生100人。実践的な英語力と二回の海外大学でのサマープログラム参加などを通じて国際経験を増やし、長期間のチームワークで課題の発見・解決に取り組む。すべての学部から学生が参加している。

 国の予算は獲得できず、苦労して企業から寄付金を集めて自前で運営している。吉見さんも有力企業40社ほどを回って頭を下げたそうだ。参加した学生からは極めて好評。「このプログラムは東大での生活で一番重要だったし、一番いろいろなことを学んだ」という声が寄せられているそうだ。

 そういえばBOOKウォッチで紹介した『グローバル人材へのファーストステップ――海外の学生とPBL / TBLで学び合う』(九州大学出版会)にも、似たような話が出ていた。九州大学の「アジア太平洋カレッジ」だ。学部の1、2年生を対象とした「国際体験」型の共同教育プログラム。韓国、台湾、ハワイの大学を連携相手としている。「少子高齢化」「外国人労働者の受け入れ」「災害と安全」「安全保障」など東アジア地域に共通する課題を設定、それぞれの国や地域での取り組み、捉え方を話し合い、解決策を見つけるために学び合っているという。

 国際社会に貢献できる人材を、可能な限り、日本の大学の中で創意工夫しながら養成する――東大や九大のような実際的かつ地道な取り組みこそが、日本の大学を再生させることにつながるのではないか。本書を読みながらそんなことを感じた。

参照:http://www.rui.jp/ruinet.html?i=200&c=400&t=6&k=2&m=353910

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