過酢酸製剤というのをご存じだろうか。食品に関係している人でなければ、まず耳にすることはないが、鼻をつくような臭いがする過酢酸と過酸化水素、酢酸を混合したもので、食品の殺菌剤として使われる。過酢酸は酢酸に変わるときに活性酸素を放出し、細菌がこれに触れると死んでしまう。米国では、チーズなどの殺菌剤として広範囲に使われてきた。ところが、日本では動物実験で過酢酸の発がん性が分かって禁止された。
遺伝子を傷つける活性酸素は、細胞ががん化していく大本だといわれている。この活性酸素は過酸化水素も出す。
昔、薬局で消毒薬のオキシドール(過酸化水素水)が売られていたが、最近は見かけなくなった。発がん性が分かったからだろう。
食品に過酢酸が含まれていたら、食品衛生法10条違反ということで国内では使われなかった。ところがある日、過酢酸を食品添加物として申請した企業があった。国は実態を知るために輸入食品を調べてみたら、次々に検出された。特に多かったのは米国産のくず肉。これは牛丼の材料や、ソーセージなどの加工品に使われるが、腐りやすいために過酢酸を大量に使っていた。本来なら輸入禁止になるはずが、そんなことをしたら市場に大きな影響を与えるという理由で、見て見ぬふりをしたのである。
ところが、米国からO―157やサルモネラ菌などに有効だから、くず肉に過酢酸の使用を認めろと要求されたのだ。
ここまで書けば、その後がどういう展開になるか分かるだろう。そう、すでに米国やカナダなどで野菜、果実、食肉などの殺菌洗浄に使用が認められていて、残留性もないとして2016年に食品添加物として認めたのだ。ただし、加工肉への添加は認めず、肉や野菜の表面の除菌に限った。
もはや米国産の食品は、食べ物というより、成長ホルモンや農薬を使って大量に生産する工業製品だ。こんなものを押し付けられても、日本は文句ひとつ言えない。
かつて、フランス大統領ドゴールは、「食料が自給できない国は、真の独立国ではない」と言った。食料を自ら自給することが最大の安全保障であることを身に染みているからだろう。日本と同じ自給率だった英国が、30年かけて80%にしたのも同じ理由だ。胃袋を米国につかまれ、米国なしに生きていけない日本は、とても独立国とは思えない。