「ホームレス大国アメリカ」の現実 世界覇権どころではない国内の疲弊

長周新聞リンクより転載します。
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全米で貧困に喘ぐ子どもは、全体の約21%にも及ぶとされ、先進国の中でも突出している(日本は13・9%)。ニューヨークでは、住む場所を持たない公立小学校の児童数が2015~16年度で約10万人(1年で20%増加)にのぼり、この傾向が続けば全児童の7人に1人に達することが指摘されている(非営利機関「ICPH」調査)。「子どもの貧困」は、それを養うことのできない「親の貧困」を意味しており、生活基盤まで失ったホームレスの増加は、「アメリカン・ドリーム」とはほど遠い、生きていくことさえ困難になった米国社会の現実を映し出している。

 とくに近年は西海岸(カリフォルニア、オレゴン、ワシントン)の3州でホームレスが急増していることが報告されており、少なくとも州内10自治体が「非常事態」を宣言する事態となっている。ホームレスの多い都市を調査したAP通信の報道(2017年11月)によると、西海岸3州のホームレスは16万8000人となり、わずか2年間で2万人も増加した。そのうちバス停や駅、廃屋や車両で野宿する人の割合は18%増加し、10万5000人にのぼっている。

 西海岸を代表する都市ロサンゼルスは、家がなく公共のシェルター(避難所)にも入り切れない人の数が全米で最も多く、2017年にホームレス状態にある人の数は3万4189人で、前年比で20%増加した(支援機関「LAHSA」調査)。18歳から24歳までの若年層ホームレスは64%も上昇しており、「ロサンゼルス短大地区の学生の5人に1人はホームレス」という調査結果(ウィスコンシン大学)もある。2015年には市長が「非常事態宣言」を出して住宅建設などの対策を講じているものの、そこに周辺各地からホームレスが押し寄せて「焼け石に水」のジレンマに陥っているという。

 またニューヨークでも、ホームレスはシェルター生活者を含めて約7万7000人(昨年2月)となり、3年間で1万人近く増えている。年明けに全土を襲った大寒波ではホームレス凍死者も続出しており、行政がホテルなどを借り切り緊急の避難所としている。

賃金は減り 住宅価格は暴騰

 ホームレス増加の主な理由は、工業の機械化による解雇や病気による失業の増加、実質賃金は増えず家計収入は減っているのに進む物価上昇、とくにリーマン・ショック以来続く住宅価格と賃貸料の異常な高騰である。

 全米のホームレスは08年のリーマン・ショック直後に爆発的に増えた。政府は大銀行を7000億㌦(約70兆円)もの公的資金で救済する一方、FRBによる量的緩和でドルを刷って米国債と住宅ローン担保証券(MBS)を大量に買い入れた。それによって住宅金利は下がり、住宅への投資を促進したが、余剰マネーがふたたび不動産市場に投機する流れをつくり、不動産価格はリーマン・ショック以前をしのぐ天井知らずの高騰を見せている。

 一方、労働市場は「完全雇用に近づいた」というものの、失業状態が1年をこえると失業人口の統計から外される。それら職探しを諦めた失業者や、正社員の長期雇用を失った後、食べていくために短期アルバイトに切り替えて働いている人を加えた失業率は20%にのぼり、とくに16歳~29歳までの若者では45%といわれる。賃金上昇率もリーマン・ショック前の3~4%に比べ、2・5%程度に落ち込んでおり、物価上昇に家計が追いつけない。

 その矛盾が集中したのがIT産業で急成長を遂げたシリコンバレーを抱える西海岸で、全米で進む不動産市場のバブル化に、企業進出や労働人口増加による需要増大という条件が加わり、住宅価格は高いところで年平均20%も上昇。高級住宅に暮らす人人がいる一方で、低価格帯でもワンルームの家賃が3000㌦(約33万円)にもはね上がったため、多くの人人が住居での生活を諦め、路上生活をしながら働いている。

 「更新手続きでいきなり家賃が500㌦(5万5000円)も上がった」「年収700万円稼いでも家族を養うのが難しい」というほど異常な高騰が家計を襲い、空き地や川縁にはテント村ができ、道路に連なる宿泊用の車両が急増した。時給15㌦(1650円)程度の所得ではフルタイムで働いても、とても2000~3000㌦もの家賃は支払うことはできない。いまや「ホームレス=失業者」という概念は過去のものとなり、工員やショップ店員、技師、教員までが路上や車上生活をしながら職場に働きに出て、シャワーを浴びるためだけにスポーツジムの会員になっている(AP通信)。

http://www.rui.jp/ruinet.html?i=200&c=400&t=6&k=2&m=332915

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