アベノマスクの酷すぎるドンブリ勘定 466億円もかかるはずなかった

新型コロナウイルスの感染拡大によるマスク不足を解消しようと、安倍晋三首相が4月1日に日本の全戸5000万世帯に配ると表明した布マスク、いわゆる「アベノマスク」が迷走を重ねている。

当初示された466億円もの「高すぎる予算」の中身はどうなっているのか、異物の混入など品質面での問題が多発したのはなぜなのか――話題のわりに謎多きアベノマスクの実態を、取材にもとづいて検証する。

あまりに高すぎる予算
4月1日、御年65歳の安倍首相が顔に対して明らかに小さいマスクをつけて、参院決算委員会に登場したことから全ては始まった。首相は同日夕方の感染症対策本部で、「全世帯に2枚ずつこの布マスクを配布する」ことを表明。有効性をこう主張した。

〈私も着けておりますが、この布マスクは使い捨てではなく、洗剤を使って洗うことで再利用可能であることから、急激に拡大しているマスク需要に対応する上で極めて有効であると考えております〉

小学校の給食係を彷彿とさせる見た目と、自信満々の安倍首相のギャップに衝撃が走った。これには海外のメディアも反応せざるを得ず、米FOXニュースは「エイプリル・フールの冗談か」と揶揄し、ブルームバーグ通信は「アベノミクスからアベノマスクへ」(電子版4月2日付)という記事を配信した。

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突然の発表に驚きが広がる中、さらに批判を高める要因となったのが、あまりに高すぎる費用だ。

「1枚200円程度と聞いている」

菅義偉官房長官は4月2日の記者会見でこう答えたが、あのマスクが本当に200円もするのか?と感じなかった人のほうが少ないだろう。当初示された予算総額は、実に466億円。外出自粛による経済苦が続き、飲食店や自営業者などが休業補償を求める中、「そんなカネがあるなら他に回してほしい」という声が即座に上がったのも無理はない。

この466億円の予算額のうち、政府と契約した商社などの企業からマスクを買い取るために必要な調達費338億円が、24日になって突如「90億円程度に抑えられる見通し」(菅官房長官)と大幅に軌道修正された。しかし筆者の取材によれば、当初の段階から466億円もの巨額予算はとうてい必要なかったとみられる。

いったいどういう計算をしたのか
実際のところはいくら必要だったのか。これまでの政府発表や報道などで明らかになってきた内訳について、整理していこう。

まず、当初示された予算総額466億円は、財源の内訳でみると予備費が233億円、今月末に成立する緊急経済対策の補正予算の233億円だ。使い道は、先述の調達費338億円のほか、日本郵政グループの郵便システムを使って各世帯に届けるのにかかる配送費が128億円と説明された。

福島瑞穂社民党党首からの質問に対し、21日に厚生労働省が回答した文書によると、受注先は医薬品・マスクメーカー大手の興和、伊藤忠商事、マツオカコーポレーションの3社で、契約額はそれぞれ約54.8億円、約28.5億円、約7.6億円の計約90.9億円だった。

233億円のうち約90億円がマスクの調達費に当てられるということは、総額466億円のうち約180億円がマスクの調達費と想定されていたことになる。配送費が128億円として、466億円から308億円を引いた158億円が残る。事務費や雑費を引いても、150億円以上の「余裕」をもって計算されていたことになる。

案の定、この筆者の計算で出てきた「浮いた158億円」はその後撤回されることとなった。政府がこれほど大きな事業を行うとき、予算とはいえ、100億円を超える「誤差」が生じるのは異常といっていい。しかもその後、費用は大幅に減る見通しが示されたのだ。いったいどういう計算をしたらこんな結果になるのか、不思議で仕方がない。

せいぜい1枚60円
「あんなボロマスク、せいぜい仕入れで1枚60円がいいところですよ」

中国に製造拠点をもつ千葉県内のアパレル業者は、アベノマスクの品質と「本当の価格」についてこう話す。

「いわゆるガーゼマスクは、仕入れ価格で普通1枚80円前後。今回は億単位の超特大ロットが発生するから、当然1枚当たりの単価は下がる。仕入れ価格は少なくとも200円の3分の1、70円は超えません」

費用以上に大きな批判を呼んだのが、アベノマスクの低品質ぶりだ。急ピッチで発注をかけたせいか、不良品が相次いで報告された。

厚労省は妊婦向けの布マスクのうち7800件以上について「黄ばみや黒ずみなどの変色がある」「ゴミや髪の毛が混入していた」「異臭がする」などの不良品事例があったことを明らかにし、21日に配布中止を決定。全戸配布用のマスクにも同様の不良品が混入していたとされ、Twitterなどでも「健康被害はないのか」「安心して使えない」と不安の声が広がった。

政府は各都道府県に注意喚起の通達を出し、一部の業者が製作したマスクについては全品回収を始めた。24日には菅官房長官が「検品のため、配布が遅れる」と発表し、伊藤忠と興和も同日、まだ配布してないマスクを全て回収することを明らかにしている。

ちゃんと確認したのか
ここまで多数の不良品が出回ること自体、ずさんな業者が製造を担っていることを強くうかがわせる。

伊藤忠と興和など、今回受注した企業は中国やベトナム、ミャンマーの業者からマスクを調達している。百歩譲って、現地での検品時に不良品をハネられなかったとしても、日本に着いた時点での検品もおろそかになっているのは、日本有数の名が知られた商社・メーカーとは思えない不手際だと言わざるを得ない。先の千葉の業者がこう解説する。

「コロナが流行る前は、布マスクの需要なんて、それこそ小学校などのごく限られた分野にしかありませんでした。いまは大人がマスクを洗って何回も使うこと自体がありえないので。ですからおそらく、契約を受けた会社に全世帯分の注文が届いたのは、アベノマスクの配布が発表される直前だったのでしょう。

そうでなければ、伊藤忠のように中国や東南アジアでの繊維製品仕入れ・製造の実績もある企業で、このように低レベルなミスは考えられない。超のつく短納期で、今まで需要がなかったものをあり得ないほど大量に仕入れるとなったら、不良品をつかまされる危険性はいやおうなく跳ね上がる。結果が、この大混乱というわけです」

さらに、この業者はアベノマスクが明らかに成人用にしては小さく設計されていること、そこから発注前に安倍首相をはじめ、政府首脳がサンプルを確認さえしなかった可能性についても言及した。

「安倍さんは基本的に見た目には気を遣う政治家だと思いますし、国民に奇妙な印象を与えるのは分かりきっていたはず。すでに数千万枚単位の大量生産・調達に入ってから、事後的に承認したのではないでしょうか」

挙げ句の果てに逆ギレか
アベノマスクの発案者は、首相秘書官の佐伯耕三氏といわれる。佐伯氏は経済産業省出身で、史上最年少で首相秘書官に就任した。現在44歳と官邸スタッフとしては若手に入るが、今回のアベノマスクについても「国民の不安がパッと消える」と発言したと伝えられるなど、世間とのズレっぷりが際立っている。

佐伯氏はアベノマスクだけでなく、人気歌手の星野源と安倍首相との「コラボ動画」を発案し、ネット上での大炎上を招いてもいる。

佐伯氏の行動原理をひとことで言えば、国民のことを考えず、ひたすら安倍首相の機嫌を良くするために動く「安倍目線」だろう。アベノマスクにしても、コラボ動画にしても、「こういうことすりゃウケるんだろ」という上から目線かつ思いつきレベルの稚拙な発想で、無用な混乱と浪費を招いている。税金でメシを食っているという自覚があるのだろうか。普通の組織なら即刻クビだ。

しかし、身内を大事にする傾向が非常に強いのが安倍晋三という政治家だ。佐伯氏がどれだけ国民に損害を与えようと、官邸スタッフの筆頭格である、経産省出身の今井尚哉首相補佐官が彼に目をかける限りは、残念ながら政策決定の場に居座る可能性は高い。

安倍首相自身も、布マスク配布への批判の高まりについて質問した朝日新聞の記者に対し、「御社のネットでも布マスク、3300円で販売しておられたということを承知している」と反論し、器の小ささをあらためて露呈した。

有事の際、権力者が市民から厳しい批判に遭うのは当然のことである。還暦を超えたいい大人が、都合の悪いことを聞かれて逆ギレするなど、子供じみているとしか言いようがない。

今回のアベノマスクの失態も、耳障りのよいことを言う幇間ばかりを引き立て、異見に耳を傾けないこの政権の体質が生んだものではないか。

参照:https://news.livedoor.com/article/detail/18176650/?fbclid=IwAR3TsgVc01cea7C3euBriaesNfAoJdx8F_jc6nA54NMDg8MqPsaInophAvg

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