米銀システムのドル不足→米国債の発行限界が近いのか???

吉田繁治氏 ビジネス知識源 リンク 
<412号:現代貨幣論の批判的な検討(2:後編)>2019年12月27日 テーマ: 単純化バイアスの通貨論
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■1.米銀システムでの、ドル現金不足の原因

▼米銀のドル不足の原因
(1)2017年から発効したトランプ減税(法人税35%→21%:40%の減税)から、政府の財政収入が減り、他方では、軍事費と社会保障費は増えて、財政赤字が1兆ドルを超えたこと。
2017年の国債発行は5500億ドルでしたが、2018年は1兆3400億ドル、2019年は1兆4000億ドル(154兆円)に膨らんでいます。2019年の国債発行は、2017年の2.5倍です。日本政府の新規国債発行(35兆円)の4.4倍です。
米国の銀行は、17年比で2.5倍に増えた国債を、買い受けなければならない。新規発行国債を、米国の銀行が買わないと、国債価格は、売れる価格にまで下がって金利は高騰し、銀行信用が縮小して、金融危機になるからです。米国の国債残は、22兆ドル(2420兆円)であり、日本の2倍と大きい。

(2)米国は、貿易+所得収支の経常収支が、赤字を続ける国です。このマネーの面での意味は、増加発行する国債のすくなくとも40%(5600億ドル:61兆円)は、一旦は買った米銀から、海外(中国、日本、産油国)に売られなければならないということです。
赤字(=海外へドル流出)がある米国の銀行は、自国の国債の、全部を買うことができないのです。
海外からドル国債を買ってきた3大国は、多い順にいえば、(1)中国、(2)日本、(3)中東の産油国です。
トランプ大統領は、中国の輸出に打撃を与えるため、2018年8月から、中国からの輸入に特例の関税を課し、中国から世界への輸出を減らしてきました。
トランプ関税への中国側の報復としても、中国政府は「ドル債を売ってユーロ債に振り替える」方法をとっています。2018年8月から、中国はドル債の買い手から、売り手に転換したのです。

日本の外債(中心は米国債)の買い増しは、1年に最大で20兆円/年です。日本の貿易黒字も減っていて、米国債を大きく買い増す力を失っています。原油価格が下がった産油国も、過去のようにはドル債を買うことができない。
「中国がドル国債の買い手から売り手になると」、米銀が買い受けなければならない米国債が増えます。
米銀が買わないと、債券市場で売りが超過した米国債(産高22兆円)の流通価格が下がり、金利は一瞬で高騰し、1週間で金融危機になります。国債は、金融機関の資産になっているからです。

まとめれば、
(1)米国債発行の、2.5倍への増加(1.4兆ドル)、
(2)中国の、米国債の売りと、貿易黒字の減少、
(3)日本の、米国債買いの増加の限度、
(4)原油価格下落による、中東の貿易黒字が減って、ドル国債買いが減少したこと。
以上の、4つの要因の複合によって、米銀が買い受けなければならない米国債の金額が、増加しました。
以上が、2019年9月18日以降3か月の、米銀システムのドル不足(推計88兆円相当)の原因でしょう。このため、FRBが国債を買って8000億ドル(88兆円)のドル現金を、銀行に供給したのです。

■2.2020年の、更に増える新規国債発行が、どう買われるか。

2019年度には、米政府は1兆4000億ドル(154兆円)という、大きな新規国債を発行します。トランプ減税(政府収入の低下)と、財政支出の増加が、重なるからです。
米国の社会保障費は、戦後ベビーブーマー8000万人(1946年から64年生まれ:日本の団塊の世代は米国の1/10の800万人)が次々に65歳を超え、増える医療費と公的年金により、今度もずっと拡大を続けます。
2020年代の財政赤字は、1兆ドルを超えます。トランプ大統領が緊縮財政にして増税に転換して、赤字が減る見込みはないからです。貿易赤字も8000億ドル(2018年)から、拡大基調です。
2020年の国債の新規発行は1兆4000億ドルを超えて1兆5000億ドルに増えるでしょう。国債発行は、「財政赤字(1兆ドル超え)+公共投資の増加分(5000億ドル)」になります。
国内の銀行システムが買い受けることのできる国債は、5000億ドル程度でしょう。貿易黒字の急減から、中国が買う米国債は減っています。日本のメガバンクが買えるのは1000億ドル(11兆円)程度でしょう。

●残り9000億ドルの国債は、誰が買うのか。米銀システムが買えば「ドル現金の不足」になって、国債価格が下がり金利が高騰します。米国もいよいよ日本のように、FRBが1年に9000億ドル(99兆円)の国債を、ドル増発によって買い受けなければならない時期に突入して行きます。

【現代貨幣論(MMT)の説くところ】
現代貨幣論は、対外負債のない国は、赤字国債でも中央銀行が買う受けるマネタイゼーションによって、経済を成長させることができると説いています。しかし米国は、日本とは逆に、対外負債が36兆ドル、対外資産26兆ドルであり、10兆ドルの対外純債務国です。
米国のような純債務国で、赤字国債を中央銀行が買い受ける「マネタイゼーション(国債の現金化)」を行うと、海外からのドル買いが減ってドル安になるでしょう。米国では輸出より多い輸入が多く、輸入物価の上昇から、米国内の物価は上がっても、経済は成長しない「スタグフレーション(インフレ経済成長のなさ)」になっていくでしょう。2020年はその初年度でしょう。
経済成長が低いなかで、物価が上がると、市場の期待金利は上昇します。この期待金利の上昇から、既発国債(22兆ドル:2420兆円)の価格が下がって、銀行が債務超過に陥っていくとともに、史上最高の高値の米国株も下がります。

●2020年の早ければ3月、4月に、史上最高の米国株の、大きな下落の可能性が出てきたのです。米国の低金利バブルは、海外からのマネーの流入(ドル国債買い40兆円:中国+日本+産油国)を前提に、成立してきたからです。

参照:http://www.rui.jp/ruinet.html?i=200&c=400&t=6&k=2&m=352820

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