AIは「パラパラ漫画」だが人間は違う

福岡伸一教授と共に、「動的平衡」の視点から「不安定な社会」を見る(リンクより)

:::以下転載:::

:::前略:::

◆Singularity is never here. AIは「パラパラ漫画」だが人間は違う

―「動的平衡」の考え方を理解することで、生物以外の現象、例えば、社会の見方が違ってくる予感があります。今回の著書では、芸術など異分野を取り上げられていました。「動的平衡」的な考え方をもつ先生には、いま社会がどう見ているのでしょうか。

福岡:近代社会は分断の社会です。あらゆる物事を分解・分断し、細かくなったピースに「名前」を着け、役割や意味づけをすることで、とにかくロジカルに理解しようしてきた。ロゴス(論理)を重視した社会であり、そのロゴス的思考の究極のものがAIなんです。

AIは「第3次ブーム」といわれるように、突然現れたものではありません。以前から人工知能はあったし、突然大きなイノベーションが起きたわけではありません。ロジックでつくられたアルゴリズムを超高速に廻し続けているコンピュータです。人間とAIが違うのは時間の捉え方です。AIの中で流れている時間は「点」でしかありません。蓄積された過去のデータをもとに、論理的に選んだ現在という点があり、さらにその現在も、過去のデータとなり、計算された最適な未来の(点)を捉えている。

「パラパラ漫画」ってありますよね。1枚1枚に微妙に変化をつけた絵を連続で見るとまるで動いているように見える漫画。アニメーションです。AIがみている世界がこのパラパラ漫画なんです。瞬間瞬間の一枚の原画を取り出し、そこに描かれた世界の因果関係や仕組みをロジカルに理解することはできます。ところが、自然現象や人間は「パラパラ漫画」じゃないんですね。ロゴス(論理)だけでは捉えきれないことが起きています。

―先生はロゴスに対して、「ピュシス」(自然)という言葉を使っていますね。

福岡:はい。人間が捉えている時間は点ではありません。「過去」があるからこその「今」であることを理解しているし、数秒後を予想した上での「今」なのです。だから時間は点ではなく空間のような厚みがある。その空間の中に、過去も未来が入り込んでいるのが「今」なのです。

こうした厚みがある時間の中で、生き物は、創ること、そして自らを壊すことを同時にやっている。人間の脳の中も、矛盾したことを考えているし、まったく関係ないもの同士をつなげたりしている。決してロジカルではないんです。偶然もあるし、カオスなんです。

AIは今後も、「計算機」としての進化はあるでしょうし、それによって一部の仕事を代替することはできるでしょう。しかし、成り立ちが違う以上、人間のそのものを代替するものにはなり得ないのです。その意味で「シンギュラリティ」は来ない。「The Singularity Is Near」じゃないし、「The Singularity Is Here」でもない。「Never Here」なんです。

 
◆「種の保存」よりも「個人の自由」を優先する人間の行き着く先は?

―我々Future Society 22では、未来の社会がどうなっていくのかをいろんな専門家の方々にお伺いしています。福岡さんは未来をどう見ていますか。もしくはご関心があるポイントはどこにありますか?

福岡:ベストセラーになった『サピエンス全史』、かつて岸田秀先生が言ってきたように、近代社会の人間は「社会」という虚構をつくりあげ、そのルールの中で生きるようになりました。それよりも大きな変化は、他の生物が「利己的な遺伝子」に従い、自らの種を残す目的で生きているのに対し、人間は種を残すよりも「個の自由」を優先するように生きるようになったことです。この「個の自由」を優先する社会が今後どうなるのか…。今後は人為的な努力も必要になっていくでしょう。社会学者ではないので、具体的なアプローチとなると手に余るお話ですが。

確かに、個の自由は、ほかの生物や病気など、外敵に襲われることなく、衣食住など安全的な環境が確保できたこそ成り立っている側面はあります。先ほどのシンギュラリティの話もそうですが、未来の話って技術の話題が先行し、人間社会そのものをどうしたいのか、という話題が少ないんですね。見えないがゆえに不安も高まり、どうしても暗い話に引き寄せられます。前回の対談でもありましたが、映画『ブレードランナー2049』のようなディストピア的な世界のシナリオにリアリティを感じる人たちも増えています。

福岡:人間そんなにヤワじゃないと思うんですが。

そうですね。「動的平衡的」な現象が細胞、分子レベルに留まらず、人間、コミュニティ、社会でもフラクタルに起きていると考えるならば、今後も、宇宙の「エントロピー」は増大し続けるし、人間社会でもいろんな次元で「破壊や分解」と「創造や合成」は繰り返されていく。人間社会では今後、格差問題が広がるかもしれないし、仕事の一部の仕事はロボットに奪われることがあるのかもしれません。でも、そうした不安定な状況こそが、次の社会や仕事を生み出していくプロセスとも捉えることができますね。悲観的に考え過ぎるのはいけませんね。

福岡:ええ。細胞と同じように人間は周囲の人たちとエネルギーも情報も物質もエントロピーも交換しあっています。その関係性が次のレベルであるコミュニティに影響を与え、さらに高い次元の「社会」にも影響しあっています。ですから、周りに壁を立てて、局所的な幸せや効率、富などを求めると結果的に高い次元では「損をする」「全体の不幸を招いている」という現象が起きるんです。これは、私たちに生物学が長い歴史を通じて教えてくれたことです。

種の保存が守られている状態においては、個人の自由の追求に意識が向く余裕がありますが、種の保存が守られなくなる危険性が出てくると、そうはいかなくなるのが必然。私たちが生物である以上、その本質的な法則は忘れてはならないですね。

参照:http://www.rui.jp/ruinet.html?i=200&c=400&t=6&k=2&m=351521

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