JRも自動運転を採用、「運転士が消える日」は来るのか

ついにJRが動き出す
 今週末に東京モーターショーが開催される。煌びやかなコンセプトカーが登場する一方、実用化が進む自動運転技術も注目されることだろう。

一方、鉄道車両の自動運転技術はクルマよりずっと早く開発され、実用化されてきた。「ポートライナー」や「ゆりかもめ」などの新交通システムは完全自動化、無人運転を実施している。いまでは誰もが安心して乗れる公共交通機関だ。ただし、技術過信は禁物という教訓もまた、今年6月1日に発生した新交通システム「横浜シーサイドライン」の逆走事故で示された。

 10月8日、鉄道車両の自動運転にとって大きなニュースがあった。JRグループの自動運転採用だ。JR東日本は常磐線各駅停車で2020年度末を目標に自動運転を開始する。JR九州は未発表だが、西日本新聞が「今年度(2019年度)中に実用化の意向」と報じた。JRグループの採用で鉄道車両の自動運転が急速に普及すると思われる。

 とくにJR九州の自動運転は「踏切あり」の路線で実用化する。これは、踏切安全に関する確信あっての英断だ。いままで鉄道の自動運転は、新交通システムや地下鉄など、他の交通とは遮断された路線に限られていた。JR東日本は山手線で自動運転の試験走行を実施しているけれど、実用化第一弾は常磐線各駅停車だ。山手線には1ヵ所だけ踏切があり、常磐線各駅停車が走る綾瀬~取手間は踏切がない。

 踏切がある路線で自動運転時の安全が立証されると、ほとんどの鉄道路線で自動運転の導入に弾みがつく。ただし、先日の京急神奈川新町駅の踏切衝突事故のように、あらゆる安全策が正常に作用して防げなかった事例もある。あの事故も、電車がもっと手前から自動的に非常ブレーキをかければ防げたという考え方もある。自動運転の最大の課題は、車両側の自動化と線路側の安全確保だ。

自動運転の歴史は100年前に遡る
 鉄道車両の自動運転は、これまで鉄道が積み重ねてきた安全施策が背景にある。最初の自動操作装置はATS(Automatic Train Stop、自動列車停止装置)。運転士が赤信号を見落としたときに、強制的に急ブレーキをかける仕組みだ。

 ATSの試験開始はなんと1921(大正10)年、ざっと100年前だ。初の実用化路線は地下鉄銀座線(当時は東京地下鉄道)で、1927(昭和2)年の開業時から設置された。

 かなり原始な仕組みで、赤信号になると線路の間に寝かせていた杭が立ち上がり、車両の下に取り付けて非常ブレーキレバーを倒す。この装置は原始的だけど確実で、かなり長い間使われた。筆者が銀座線で通学していた1983年頃、立ち上がる杭を見て不思議に思った。この「打ち子式」は1993年頃まで使われたという。

 ATSは進化し続け、作動方式は打ち子から、レール間に発信器を設置する方式、レールに信号電流を流す方式などに変わった。また、急ブレーキだけではなく、急カーブなどで適切な速度に減速する仕組みもある。ATSは基礎的な安全装置であり、ほぼ全国の鉄道路線で採用された。

 ATSを発展させた装置としてATC(Automatic Train Control、自動列車制御装置)がある。初採用は1964(昭和39)年に開業した東海道新幹線だ。

 ATSは赤信号や速度制限を見落としたときに発動する。しかし、時速200kmを超える新幹線は、運転士が赤信号を見たところでブレーキをかけてもすぐには停まらない。また、地上の速度制限標識を読み取れない。そこでATCはレールの信号電流から列車の間隔を検知して、最適な速度を運転台のスピードメーターに指し示す。その速度を超えた場合は自動的にブレーキを使って速度を落とす。

 ここまでは、列車を安全に停める、減速するための自動装置だ。この次の段階、発進から加速、駅に停車まで自動化する仕組みがATO(Automatic Train Operation、自動列車運転装置)である。

 1960(昭和35)年に名古屋市営地下鉄などで試験が行われ、初の営業運転は1970(昭和45)年の大阪万博内で運行するモノレールだった。その後、1976年に札幌市営地下鉄、1977年に神戸市営地下鉄、1981年に福岡市地下鉄で順次採用された。1981年に放送されたTVドラマ『東芝日曜劇場 – お父さんの地下鉄』は福岡市営地下鉄が舞台で、故・川谷拓三さんが演じる運転士がATOのボタンを押す場面がある。新しい時代の到来を自動運転の仕組みで表現したのだろう。

目指すは究極の「無人運転」
 今回、JR東日本とJR九州が採用する自動運転は、すでに地下鉄などで採用されているATO方式だ。運転士が発車ボタンを押し、あとは停車駅まで安全監視、必要なときに非常ブレーキを操作し、乗客対応を実施する。

 JR東日本の常磐線は東京メトロ千代田線と直通運転しており、千代田線はすでにATOを実用化している。乗り入れる車両はJR側もすべてATO機器を搭載している。常磐線各駅停車が選ばれたもっとも大きな理由だ。

 JR九州の導入路線は報じられていないけれども、筑肥線が有力だ。こちらも福岡市営地下鉄と直通運転しており、福岡市営地下鉄は前述の通り1981年からATOを導入済み。もちろんJR側の電車もATOに対応している。

 1981年。福岡市営地下鉄がATOを導入した年に、神戸新交通ポートランド線がATOかつ無人運転で開業した。これが世界初の無人自動運転列車の路線だ。神戸新交通は神戸市も出資する第三セクター。直轄の神戸市営地下鉄では4年前にATOを導入しているから、その実績も貢献しただろう。

 無人運転実現のため、立体交差の軌道だけではなく、プラットホームも天井まで届くガラス製の仕切りとホームドアが設置された。線路内には徹底的に人が立ち入らない設計だ。これがのちの新交通システムの雛形ともなる。

 JRが導入する自動運転は新交通システムのような無人運転ではない。もちろん無人運転は究極の目標だろう。自動運転導入後は無人運転実施のための安全確保に取り組むと思われる。

 成功例を挙げると、米国サンフランシスコのBART(Bay Area Rapid Transit、ベイエリア高速鉄道)は、車掌乗務型の無人運転を実施している。主に4方面6系統、営業距離は約150km。東京近郊の大手私鉄に匹敵する規模だ。最高速度は時速130kmである。これは現在の常磐線各駅停車より速く、ATO無人運転のリニモ(愛知高速交通東部丘陵線)の時速100kmよりも速い。世界最速だ。

 スピード比べをするなら、現在建設中のリニア中央新幹線は無人運転で時速500kmを出す。この速度だと、運転士が目視で危険を察知しても対処しようがないからだ。したがって軌道部分の安全策を二重、三重に構築している。

 一方、中国湖北省武漢市の鉄道車両メーカーは、最高時速600km~1000kmの高速リニアモーター実験車両を公開した。こちらは運転席がある。自動運転ではないようだ。航空機と同じく、出発と到着の操作を実施、または監視するのだろうか。

無人運転を急いではいけないワケ
 新交通システムのリニモやBARTは踏切がない。JR九州は踏切ありだ。JR九州はそれなりの踏切対策を実施するだろう。実績を積めば世界に売り込む技術にもなる。

 鉄道各社が無人運転を目ざす理由は主に2つある。ヒューマンエラーの排除による安全性の向上と、人件費の削減だ。人件費削減というと聞こえが悪いようで、最近は少子高齢化による人材不足に対応するという表現も見かける。

 これはクルマの自動運転にも共通するだろう。クルマの場合はバス、タクシー、トラック、マイカーで比重が変わるけれども、大義としては交通事故の削減で、こちらはマイカー向け。しかし、ドライバー不足はバスやタクシー、トラック運行会社にとって共通の課題だ。

 鉄道の場合は、ヒューマンエラーについてはATSやATCで対策が整っている。したがって、鉄道会社が自動運転へ「格上げ」したい理由は人件費の削減や人材不足への対応が主だろう。無人運転になれば、運転士がいなくても列車をどんどん投入して運行できる。

 新交通システムは車両の定員から中量交通システムとして認識されているけれど、本来はもっとたくさん列車を投入して、運行間隔を短くすれば、普通の鉄道並みの輸送量を実現できる。新交通システムが本来の実力を発揮できていないという意見もある。

 鉄道の場合も同様のメリットはあるけれども、新交通システムと違って、長編成の鉄道路線はプラットホームが曲がっているなど見通しの悪い場所も多い。そこまで対応する監視システムやAIの登場を待たなくてはならない。

 ただし、人件費の削減イコール無人運転化ではない。運転士は動力車運転免許取得、技術の維持などの費用がかかる。自動運転化すれば、その費用は削減できる。発車スイッチ、非常ブレーキの操作については「運転」と見なすか否かの議論もあるだろう。今後は警備士のように、検定を受けるか、実技無しの特別講習によって資格を得る「動力車管理士」などを整備するなど、法律を整えていく必要があるかもしれない。

 個人的には乗客に対しては人が対応してほしいと考えている。運賃精算、案内のほか、さまざまなトラブル対応のために、車掌の乗務はやはり必要だ。乗客は安全だけではなく安心も求める。安全は装置で解決できても、安心は人が担保する必要があると思う。

 列車運行業務のすべてを自動化するとして、つきつめれば、泥酔客の吐瀉物を掃除するロボットを全編成に配置するのか、という話になる。いまだ、ヒューマン形アンドロイドが何でもやってくれるなんて夢物語だ。対人サービスにおいて、汎用性の高い装置は生身の人間であり、だからこそ、機械の導入コストより高い報酬であるべきだ。

 そして、「人間は間違う」「機械は間違わない」という思想には警鐘を鳴らしたい。機械は人が設計するものであり、量産すれば同じ仕様が大量に普及する。そうなると、1つの設計ミスや不具合によって、すべての機械が同じ間違いを起こす。

 その教訓が無人運転のシーサイドラインの事故だった。1つの列車の事故原因は、すべての列車で内包していた。したがって、全路線で機能を停止し点検する必要があった。

 同じ路線だからその路線の停止で済んだ。しかし、無人運転が全国、あるいは世界の路線に普及したとき、1つのエラーによって同時に別の場所で事故が多発するおそれはある。杞憂だと思うけれども、これまでの安全施策から自動運転までのステップに比べて、自動運転から無人運転に上がるハードルはかなり高い。

参照:https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20191024-00067968-gendaibiz-bus_all&p=1

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