私の職業はフリーランス麻酔科医。特定の職場を持たず、複数の病院で麻酔を担当して報酬を得つつ、多様な医療現場の内側を見る者ならではの立場で著作も行っている。コロナ禍による経済危機は、医師にとっても決してひとごとではなく、格差の拡大が一気に進んだ感がある。失って困る肩書もないので、この数カ月に医療現場で起こった騒動を率直に伝えてみたい。
連日の報道を見て、日本中の病院で医療従事者がコロナ患者の診療に奮戦しているかのように想像する人も多いかもしれない。しかし、実のところ、医師たちは実際にコロナ関連業務に対応する「多忙な一握り」と、「暇で困惑する多数」に分かれていた。検診や人間ドックなどの「不要不急の診療」は休止となり、手術件数も延期になるなどして激減した。午後3時ぐらいになると、医局には仕事を終えてダラダラする医師が目立つようになった。
「不要不急の外出は避ける」との政府広報、「志村けん死去」のショックを受けて、医療機関の受診を控える高齢者が急増した。かつて日本中の当直医を悩ませていた「コンビニ救急」(「深爪で血が出た」など軽症なのに気軽に夜間救命救急病院に駆け込む)が激減した。
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「今は病院に行っても友達がいないから」と、かつて病院や診療所の待合室をサロン化して雑談していた高齢者集団“病院サロネーゼ”も病院に来なくなった。多くの病院で経営収支が悪化し、まずは非常勤医師が解雇された。何となく惰性で雇っていた高齢医師は「コロナ感染が心配でしょうから」、スキル不足のママ女医は「今はお子さんが大変でしょうから」と、自宅待機という名の退職勧告を受けるようになった。医師のバイト案件は激減し、単価も下がった。かつては誰も目に留めなかった医師転職ネットでの地方病院当直バイトが、数分間で成約する事例が相次いだ。
3月末に雇い止めされたのは「低スキル」「時間にルーズ」など問題のある医師が多かったが、4月に入ると真面目な中堅医師も雇い止めされるようになった。4月末になると「○○医大のエース」的な人材から「仕事ありませんか?」というSNSメッセージが届き、私も心底ビックリした。私自身も症例数ベースで4月は前年同月比マイナス32%、5月は同マイナス57%となった。
コロナが正した医療界の無駄
すでにコロナ禍による経営破綻がささやかれている病院は少数ではなく、病院の統廃合が進めば、医師の淘汰も確実に行われるだろうし、若手医師に人気のキャリアのモデルコースだった眼科、耳鼻科、皮膚科の開業医も、患者の受診控えで苦しそうだ。
雇い止めされたフリーランス医師も全員が再契約できるとは思えないし、横並び固定給だったのが「売上連動制」など契約変更を求められるケースも多発しそうである。一方で、骨折(整形外科)や尿管結石(泌尿器科)など治療の必要性が高い医療はダメージが少ない。
とはいえ、意外にも「給料は減ったけれど、4~5月は人間らしい生活ができた。元に戻りたくない」と述懐する医師も多い。コロナ騒動は、不要不急の受診やコンビニ救急などによる医療費の無駄遣いや、勤務医の過重労働を解消するなど、今まで放置されてきた医療界の諸問題の解決に一役買った面もある。
https://diamond.jp/articles/-/242435?page=5
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参照:http://hamusoku.com/archives/10260004.html