なぜゴミ屋敷の住人は平気な顔で暮らせるのか

屋外にまでモノがあふれ出し、悪臭や害虫で近所を悩ませる「ゴミ屋敷」。住んでる人は平気なのだろうか。東邦大学看護学部の岸恵美子教授は「ゴミ屋敷住人は、かつてはきちんとゴミを捨てていたということも少なくない。病気や死別などで、『セルフ・ネグレクト』(自己放任)に陥ることは誰にでもある」という——。
ゴミ屋敷は孤立死につながる生命の問題
近頃、テレビのニュースで「ゴミ屋敷」が頻繁に取り上げられています。「ゴミ屋敷」とは、「ゴミが積み重なった状態で放置された建物、もしくは土地」のことです。ゴミ屋敷の住人がゴミをため込んだり、ゴミをあえて捨てずにとっておいたりすることもあります。

またゴミが堆積しているために、他人からゴミを投棄されてしまうこともあります。そして悪臭やネズミ・ゴキブリの発生などにより、近隣の住環境や治安を悪化させることもあるので社会問題になっています。

こうしたゴミ屋敷が片付かないのは、何が問題なのでしょうか。そして単なるゴミの問題と済ませて良いのでしょうか。実はゴミ屋敷は孤立死につながる生命にかかわる問題でもあるのです。

ゴミ屋敷を生出す「セルフ・ネグレクト」
ところで皆さんは、ゴミ屋敷住人にどのようなイメージを持っていますか? 「そもそも片付けができない人」「生活がだらしない人」「周りのことを考えない自分勝手な人」など、生活のルールが守れない困った人というイメージではないでしょうか。

ところが近所の方や親族に話を聞くと、ゴミ屋敷住人は、かつてはきちんとゴミを捨てていたということも少なくないのです。また、ゴミ屋敷住人が捨てていないにしても、家族の誰かが捨てていて、ゴミ屋敷になったのは何らかの出来事がきっかけだったということも少なくないのです。

ではなぜ、ゴミを放置するようになったのでしょうか? それは彼らのほとんどが「セルフ・ネグレクト」(自己放任)という状態に陥ってしまったからです。

「日常生活に必要な行為を行わない」
セルフ・ネグレクトの特徴をひと言で言うと「日常生活に必要な行為を行わない」ことです。具体的には、洗濯をしない、風呂に入らない、病気なのに病院に行かない、食事をしないなどで、ゴミを捨てずにため込むのもその中の一つです。

セルフ・ネグレクトは具体的には、いわゆるマスコミ等で報道されている「ゴミ屋敷」や多数の動物の放し飼いによる家屋が不衛生な状態、本人の著しく不潔な状態などがあります。また家屋は不潔ではなくても、医療やサービスの繰り返しの拒否や食事をとらないということもあります。

セルフ・ネグレクトは健康に悪影響を及ぼし、水分や食事を摂取しなければ生命にかかわり、「孤立死」につながることもあります。

海外の調査では、高齢者の約9%がセルフ・ネグレクトであったという報告がありますし、特に年収が低い人、認知症、身体障がい者の場合には、15%に及ぶと報告されています。またこの調査では、セルフ・ネグレクト状態にある高齢者の1年以内の死亡リスクは、そうでない高齢者に比べ、5.82倍であったと報告されています。つまり、セルフ・ネグレクトは決して軽視できない問題なのです。

判断・認知能力の低下、落ち込み、喪失感
ではなぜ、日常生活に必要な行為を行わなくなってしまうのでしょうか。認知症や精神疾患等の病気により判断・認知能力が低下して、自分で生活に必要な行動ができなくなったり、生活する意欲が失われたりすることがあります。

また、判断・認知能力の低下はなくても、何らかのライフイベントによる気持ちの落ち込みや喪失感、人間関係のトラブルなどによる生きる意欲の低下や孤立感から、セルフ・ネグレクトに陥ってしまう場合もあります。

明確に生きる意欲がわかないと自覚するというより、「面倒くさい」「もうどうなってもいい」という気持ちが、やがて生活の破綻をきたし、数カ月後にはごみ屋敷になっていきます。

多くは一人暮らしの高齢者で、いくつかの調査では男性が多いという結果もありますが、男女差は明確ではありません。また最近は引きこもりの長期化・高齢化に伴い、50代から60代の引きこもりの人の中に、セルフ・ネグレクトに陥る人がみられ、8050問題と言われています。

セルフ・ネグレクトというと、一人暮らしというイメージを持たれますが、家族がいても家族からネグレクトされた結果、セルフ・ネグレクトに陥る人もいます。最近は母子世帯等で母親が病気などで家事や育児ができないために、ゴミ屋敷で家族で生活し、家族ごと孤立しているという場合もあります。

誰にでも起こりうるセルフ・ネグレクト
セルフ・ネグレクトになるきっかけはさまざまですが、認知症やうつ等の発症で生活が困難になったり、年老いて足腰が弱り体を動かすのがつらくなったり、配偶者に先立たれ一人で生きていくのが面倒になったり、経済的に困窮し希望が見いだせなくなったという人などがいます。また日本人、特に高齢者に多いのは、プライドが高い人、また人から世話を受けることに遠慮がちな人がなりやすいようです。

それまではごく普通に社会生活を送っていた人が、病気やライフイベントなどがきっかけで起こりますから、誰もがセルフ・ネグレクトになる可能性があるのです。ただ、一つの出来事がきっかけで起きるというよりは、いくつかの要因が重なって起こることがあります。次に、よくあるケースを紹介しましょう。

①夫と死別し体を悪くしたA子さん・78歳
5年前に夫と死別し一人で暮らしていたA子さんはきちんとした性格で、毎日家の掃除と庭の手入れをしていました。ところが2年前に膝を悪くしてからは歩くのがつらくなり、掃除やゴミ出しが大きな負担になりました。気がつくと、家の中はゴミが積み重なり、庭も荒れ放題になってしまいました。そのころから近所の人との交流もなくなり、家に閉じこもる生活が続いています。

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参照:http://www.rui.jp/ruinet.html?i=200&c=400&t=6&k=2&m=353315

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