双極子である水の分子集団が外圧(外部磁場)を体内に伝達する

■水は不思議な性質をもつ物質 
 水は1個の酸素原子(O)と2個の水素原子(H)からなり、化学式H2Oで表される。水惑星に生きるわれわれにとっては、実にありふれた物質でありながら、不思議な性質をもつことは、あまり知られていない。水は個体状態では氷となり、液体状態の水に浮かぶ。あたりまえのようだが、自然界ではきわめて珍しいことだ。通常の物質は液体より固体状態のほうが重いのである。また、分子組成が水と類似する物質を調べてみると、いずれも沸点が水よりはるかに低く、常温で気体となっている。ところが、水の融点は0℃、沸点は100℃。常温で液体であることが異常であるだけでなく、その温度範囲もずばぬけて広い。 

 こうした水の不思議な性質は、水分子どうしが相互に引き合う水素結合と呼ばれる作用に由来する。水分子H2Oは、1個の酸素原子をはさんで2個の水素原子が直線上に並んだものではなく、Oを中心として「く」の字型に折れ曲がっている。このため、くの字の曲がり角部分がいくぶん負(-)に帯電し、両端部分がいくぶん正(+)に帯電して、分子全体において電気的極性をもつ。この分極により、水分子は電気的に結びつき、特有のネットワーク構造をつくりだすのである。通常の水もバラバラの分子の集まりではなく、クラスターと呼ばれる分子集団として存在することも分かっている。ある条件下では、正12面体の“かご型”構造をつくることさえあるという。 

■タンパク質を層状に取り巻く水分子 
 細胞は体液に浸っているが、これをミクロに言い換えれば、タンパク質は水によって取り囲まれているということになる。ところで、近年、強力な超伝導磁石とコンピュータを利用したMRI(核磁気共鳴映像法)が開発され、タンパク質を取り巻く水分子はタマネギの皮のような層構造をなしていることが分かってきた。 

 このタンパク質を取り巻く水分子の層構造は、VIPの警護体制にたとえられよう。VIP待遇のタンパク質の周囲を壁のように守るボディガードの水分子、それを取り巻く警備陣の水分子、さらに周囲一帯をパトロールする水分子。もしVIP身辺に異変が起これば、その情報は水分子のネットワークを通じて、たちどころに全体に伝えられ、新たな警護体制が敷かれる。この迅速な情報伝達のネットワークになくてはならないのが水素結合なのである。 

 水分子どうしの水素結合は、10の-6乗~10の-12乗秒というきわめてわずかな時間で、切れたり元に戻ったりの繰り返しをしている。その時間はタンパク質との結合度が大きい中心部では遅く、周辺部ほど速くなるらしい。生体情報は、体液の水素結合ネットワークを通じて、水面に波紋が広がるように伝達されているのだ。生体の酸化還元反応をになう電子伝達系と呼ばれる代謝機能が、離れた場所でもきわめて速やかに広がるのも、この水素結合ネットワークのはたらきによるものである。 

■体液は外部磁場のアンテナ? 
 “体内の海”である人体の内部環境が水素結合という電気的結合によるネットワークを張り巡らしているのなら、それが外部の磁場環境と無縁でないことは容易に推測できる。実際、工業や農業の分野では以前から「磁化水」と呼ばれる水が利用されている。磁力線の中を通した水は、パイプの水あかが付着しにくいとか、その水でコンクリートを練ると強度が増すとか、植物の発芽や成長を促進するといった経験的事実は古くから知られるところである。理由ははっきりしないものの、効果は明らかであり、また、大ががりな装置も必要としないため、さかんに応用されているのだ。

 ただの水でさえ、外部磁場に影響を受けているのだから、さまざまな電解質イオンを含む体液ではなおさらのことである。地磁気活動の変化が、心臓血管系の病気を悪化させたり、てんかん発作を増大させたりしていることなどは、多数のデータが立証しているところだ。

 生体と磁気の関わりは奥深く、分子レベルでの理論的解明は、今後を待たなければならない。しかし、近年の研究からしだいに明らかになってきたのは、外部磁場はタンパク質の機能に影響を与えるだけでなく、体液の溶媒である水そのものも、外部磁場に敏感に反応しているという事実である。滞留した水は淀みをつくり悪臭を放つように、体内の水循環の良否は健康状態を大きく左右しているようである。打てば響くような健康体は、体液の水分子の運動性いかんにかかっているともいえる。地球の海と同様に体内の海もまた、単純なようでいて深遠なのである。
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重要な論点は次の通りです。
【1】水分子は、水素原子2個が酸素原子の片側にやや局在することによって、一方が(+)、一方が(-)に帯電する。一個一個の水分子は電気的双極子であり、この電気力により水分子は一つの集団(ネットワーク)として機能する。

【2】生体内では、タンパク質の周りを水分子が取り巻いており、タンパク質の変化が水分子の双極性によって、瞬時に水分子集団全体に伝達される。タンパク質の周りを水分子が取り巻くのも、おそらくは細胞を構成するタンパク質や燐酸基が何らかの電気的極性をもつからだと考えられる。

【3】双極子であるが故に、水分子は外部磁場に瞬時に反応する。そして、外圧(外部磁場の力or情報)を生体内のタンパク質や燐酸基に伝えるのは、水の分子集団である。

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