原油流出事故から10年目のメキシコ湾の深海の様子がアメリカでの調査で明らかに : そこはゾンビと化したカニとエビだけが蠢く正真正銘の悪夢の海底だった

2014年にジョイ氏が再び潜水した時に、このエリアの海底に戻っていた生物種は甲殻類だけだった。そして、それは今日になるまで明らかに続いている。

2014年以降、メキシコ湾原油流出の深海への影響に関するほとんどの研究は終了した。

そして、2015年に、原油流出事故を起こした BP 社は、メキシコ湾の環境は自然に回復し、「原油流出前の状態に戻っている」と主張する声明を発表した。これに対して、アメリカ海洋大気庁(NOAA)は「この声明は不適切で時期が早すぎる」とコメントを出している。

2014年、科学誌に発表された研究では、ジョイ氏による海底の土壌サンプルの調査から、BP 社の原油が、1,200平方マイル ( 1900平方km)以上の海底に広がっていることが見出された。しかし、2015年の報道によると、 BP 社はジョイ氏の調査結果に同意せず、海底に残った原油はもはや有害ではないと付け加えている。

しかし、深海生物学者たちはそれは幻想だと見抜いている。

ルイジアナ大学海洋コンソーシアムの研究者たちは、7年間で海底の様子がどのように変化したかを記録しているが、生物種の中で甲殻類だけは、特にカニはどこにでもいた。

研究者たちは、原油流出の海底に定着した甲殻類や、その他の節足動物の膨大な数にショックを受けた。大まかな推定によると、大西洋の深海の赤カニ、赤エビ、および白海老のエビは、湾のその他の場所よりもディープウォーターサイトに、ほぼ 8倍多く生息していた。

しかし、甲殻類が豊富に住んでいることは、この海底エリアが健康的に回復しているということを意味してはいない。

特に研究者たちにとって不気味だったのは、カニの非常に遅い動きだった。

ナナリー氏は言う。

「通常、ROV (遠隔操作潜水艇)のライトを見ると、カニは即座に散らばって逃げていきます。ところが、これらのカニは、ライトに気づかないか、あるいは、関心を持たないのです。

なぜ、原油流出現場の海底にカニやエビなどの甲殻類が数多く集まっているのかということについては、研究者たちは、炭化水素の分解物が、周囲の海底からカニを引き寄せていると説明する。

カニは、炭化水素の分解物に誘因されるのだという。しかしこの場は、間違いなく有毒廃棄物が溜まっている深海なのだ。

研究者たちは、過去の事例と同様のことが起きていると仮定している。たとえば、2003年にニューイングランドのバザーズ湾で原油流出が発生した際にも、同様の化学的混乱が発生した。その際には、ロブスターの大群が現場に誘因された。

研究者たちは、この誘因を「死のトラップ」に例える。なぜかというと、一度誘因されると、カニなどの甲殻類は、そこから去る能力を失うのだ。

しかし、この有毒な海底は、甲殻類以外の生物種が生きることはできないために、カニが食べる食糧源は「お互い」しかない。つまり、カニは他のカニの肉を食べて生きるしかない。

しかし、当然ながら、原油の毒素に覆われたカニの肉を食べることは、そのカニの死を誘発することになり、死の悪循環がいつまでも続く。

また、この海底のエリアに生息しているカニたちは、その形態も正常ではなかった。

爪が縮んでいるもの、表面の一部が腫れているもの、しわが寄った足を持つもの、寄生虫に覆われたものなどが数多くいる。

ナナリー氏はこのように述べている。

「カニたちには変形がありましたが、ほとんどのカニは脚や爪などが欠落していました。4本や 5本の脚で動き回っているカニがたくさんいるのです」

なぜ、カニたちがこのような状態になってしまったかについて、その疾患を招いた毒素をまだ特定していない。エビはカニより状態がひどかったという。

「もはやエビのようには見えないエビがたくさんいました。小さな甲殻類の多くは背中にコブを持っていました」

このコブは、おそらく腫瘍だと見られる。

研究者たちは、今回の深海への訪問では標本を捕獲することはできなかった。通常は、標本の捕獲は、餌付きのトラップで行われるが、これらの病気の甲殻類たちは、もはや、エサのために移動することに興味がないようなのだ。

なので、エサを使ったトラップで、甲殻類を捕獲することができなかった。今後、特殊な ROV を使用する必要があるが、技術的には難しい。

研究者たちは、この研究により、多くの人たちが、現在の海底の荒廃について興味を持ってくれればと望んでいる。

ここまでです。

なかなか壮絶な様相となっているようです。

少なくとも、この記事を読む限り、そう簡単にメキシコ湾の海底の状況は改善しないと思われます。

これは、原油の影響も当然あるでしょうけれど、当時の原油流出の対応の際に、原油を分解するために撒かれた石油分解剤のコレキシット( Corexit )という薬剤は、かなり毒性の強いものとされていまして、それが与えたダメージも今でも響いているような気はします。

http://www.rui.jp/ruinet.html?i=200&c=400&t=6&k=2&m=349916

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