ノーベル賞受賞・山中伸弥教授が懸念する「人類が滅ぶ可能性」

人類は滅ぶ可能性がある」
司会の一人をつとめていただいた山中伸弥さんが、番組収録中に、こうつぶやいたことに私は驚きました。私たちが取材していた『シリーズ人体Ⅱ 遺伝子』という番組は、生命科学の最前線を視聴者に伝えるもので、その内容は明るく、ポジティブな未来像を描くものだったからです。

ところが、番組終了後、ツイッターなどから寄せられた視聴者のコメントの中には、山中さんと同じく、生命科学研究が際限なく発展することへの漠然とした恐れや、技術が悪用されることへの不安を感じたという声が含まれていました。

それにしても「人類が滅ぶ可能性」とはただごとではない――。そう思った私は、番組を書籍化するにあたり、山中さんのお話をあらためて聞くため、京都大学iPS細胞研究所の所長室を訪ねたのです。

こう語るのは、今年5月に放送されて大きな反響を呼んだ、NHKスペシャル「人体」取材班の制作統括を務めた浅井健博チーフプロデューサーである。

iPS細胞の生みの親としてノーベル賞を受賞し、現在も生命科学研究の最先端を走り続ける山中伸弥教授(57)。京都大学iPS細胞研究所所長としての本業だけでなく、進化しつづける科学技術の伝道師としてさまざまな活動にひっぱりだこの山中教授の所長室には、一見すると科学とは関係なさそうなモノが溢れている。

いくつもの絵画や書、さまざまなぬいぐるみ、ひときわ目立つ赤い「KOBELCO」のラガーシャツ。その横には、シャツの贈り主である、故・平尾誠二ラグビー元日本代表監督と一緒に撮った写真が飾られていた。

生命の根本に関わる遺伝子まで操作することが可能になった現在。かつては2歳まで生きられないとされた難治性疾患の患者を治す遺伝子治療薬まで登場した。ただし、その価格は日本円にして約2億3000万円。その薬で生き延びた患者が成長しても、自分の子どもも同じ病にかかる可能性がある……それなら、次の世代が生まれてくる前に遺伝子を改変してしまってもよいだろうか?

山中教授と浅井氏は、こうした生命科学が発展するからこそ生まれてくる「危険性」について語り合ったという。

人類が滅ぶ可能性がある、という発言について、山中さんは私にこう説明してくれました。

「僕たち人類は、1000年後、1万年後も、この地球に存在する生物の王として君臨していると思いがちですが、地球の長い歴史の中で、そんなに長いあいだ存続した生物はいないのです。1万年後、私たちとは全然違う生物が、地球を支配していても不思議ではありません。

しかも自然にそうなるのではなく、人間が自らそういう生物を生み出すかもしれません。

うまくいけば人類は地球史上最長の栄華を誇ることができるかもしれないし、一歩間違うと、新たな生物に地球の王座を譲り渡すことになります。いま、人類はその岐路に立っていると思います」

山中さんの懸念は、研究者の倫理観が低下して生命に対する畏れを失い、研究に歯止めが利かなくなった結果、人類が滅亡するかもしれないというものです。

私たちも番組制作を通じて警鐘を鳴らす必要があると考えていますが、山中さんは科学者、研究者に求められる姿勢として「密室で研究しないこと」を挙げていました。

生命倫理の規範は、誰かがひとりで決めるものではなく、さまざまな立場の人の意見を反映して決めていくべきだという考え方。そこに山中さんの研究者としての真摯な姿勢を見た思いがしました。

いま、科学の進歩は加速度的にスピードを上げている。この先、人類はどんな道を進むのか。iPS細胞の研究で、その答えが出るかもしれない。ノーベル賞受賞で大きな脚光を浴びた山中教授だが、これから先も山中教授の研究室から目が離せないのだ。

参照:https://friday.kodansha.co.jp/article/67199?fbclid=IwAR1grqMKZu5qVnATBCuqb9kFAkZiux72ofduBUHQEyKuGhIKC8sdIPntLhM

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