人体内の微生物は「未知のタンパク質」を大量に生み出していた・・・これらのタンパク質はあまりにもサイズが小さいために、これまでの調査では見落とされてきた

人体は、無数の微生物でいっぱいの不思議の国です。

ですがその具体的な仕組みは、ほとんど明らかになっていません。

スタンフォード大学医学部のエイミ・バット氏らが、ヒト微生物叢が未知のタンパク質を大量に生産していることをこのほど示しました。これらのタンパク質はあまりにもサイズが小さいために、これまでの調査では見落とされてきたといいます。

論文は、8月8日付けで雑誌「Cell」に掲載されています。

存在をあえて無視…「目に見える盲点」だった小型タンパク質
研究チームは微生物同士の相互作用の秘密が、極小サイズのタンパク質の中にある可能性を以前から疑ってきました。ですが、どの微生物DNA配列が極小遺伝子を含むのかを予測することは困難だったため、その存在を体系的に無視してきました。いわば「目に見える盲点」です。

微生物は、消化や食糧の供給、健康状態の維持を助けますが、これらの仕組みを細分化することはこれまで困難でした。そこで今回研究チームは、従来の研究の網目をかいくぐってきた小型タンパク質の中こそが、細胞膜を通り抜けて近くの寄生相手や微生物に情報を伝達する役割を担っているのではないかと予測したのです。

微生物ゲノムは、長い文字列から成る一冊の本のようなもので、その中のごく一部だけがタンパク質を作るのに必要な情報を符号化しています。従来は、遺伝子を挟む「スタート」と「ストップ」の信号を示す文字の組み合わせを見つけることで、タンパク質遺伝子が特定されてきました。

ところが、問題は、より小型のタンパク質においては誤った陽性反応が大量に現れてしまうことでした。

予測を大幅に上回る小型タンパク質の特定に成功
この問題を解決するため、研究チームは、数多くの異なる微生物やサンプルに含まれる小型タンパク質遺伝子の候補を互いに比較することにしました。複数の種やサンプルで繰り返し特定される遺伝子ほど、本当に陽性である可能性が高いと考えたからです。

この分析を莫大なデータセットに適用したところ、予測をはるかに上回る数万個もの小型タンパク質のDNAが見つかりました。4,000種を越える新しいグループに所属するこれらのタンパク質は、細胞間のコミュニケーションや戦争を含む重要なプロセスだけでなく、微生物を健康に保つために必要なメンテナンス機能にも関わっている可能性が明らかになりました。

タンパク質は直接DNAから合成することはできません。DNA上の情報は、いったんメッセンジャーRNAに転写され、翻訳という過程を経てアミノ酸が連なったタンパク質を合成します。この翻訳で重要な働きをするものの一つがリボソームです。

研究チームは、今回の小型タンパク質のDNAがRNAに転写され、翻訳のためにリボソームに輸送されることを示すことでこれらの遺伝子がタンパク質を符号化することを確認しました。

現在、彼らはこれらのタンパク質の機能をさらに詳しく探り、腸内で縄張り争いを行う微生物にとって重要なタンパク質を特定しようと、日々研究に邁進しています。

また、小型タンパク質は急速に合成でき、機能的状態を切り替えたり、他の細胞における特定の反応を引き起こしたりといった生物学的スイッチとして微生物に使用されている可能性もあります。さらには、大型のタンパク質と比較すると調査や操作が簡単なので、薬剤の開発にも活用がしやすいというメリットもあるそうで、その応用に期待が膨らみます。

私たちの体内で微生物が作り出す小型タンパク質の研究。生物学の新領域として、確実に歩みを進めています。

参照:http://www.rui.jp/ruinet.html?i=200&c=400&t=6&k=2&m=349082

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