物質と生命の違いは何か・・・「生命とは何か?」と聞かれたときに、皆さんは何を想像するでしょうか?分裂、融合?DNAやRNA、タンパク質?ゴルジ体、ミトコンドリアなどの細胞組織?

「生命とは何か?」と聞かれたときに、皆さんは何を想像するでしょうか?

分裂、融合といったダイナミックに動くものと答える方もいれば、DNAやRNA、タンパク質といった生体物質、さては核、ゴルジ体、ミトコンドリアなどの細胞を構成する組織を真っ先に思い浮かべる方もいるかも知れません。

しかし、これら生命を連想させるキーワードだけでは、非生命と生命の境界を明らかにすることはできません。

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●「生命」を理解するためのアプローチ
生命体を構成するものは基本的に有機分子であり、それらがどのようにして40億年前の原始地球において生成されたのかを検証する実験はこれまでに多数なされています。しかし、アミノ酸や脂質、RNA/DNAなどの物質と生命の間にはいまだミッシングリンクが存在しており、物質がどの段階で「生命らしく」なり、そして生命へと進化していったのかは、自然科学が発達した現代においても謎のままです。

私たちは、物質のみの世界からいかにして生命らしさが生まれるのか、さらに、原始生命体がいかに誕生したのかを、素性のよく知られた分子を用いて実験モデルを構築し、構成的に明らかにすることを目的に研究を行っています。

具体的には、生命の特徴のひとつである「動き」に着目し、比較的柔らかい物質群であるソフトマターを用いて生命らしい動きをつくり、その挙動を解明することで、原始生命体と運動の関係性を明らかにしようとしています。今回、原始地球上にも存在し得た有機分子からなるマイクロメートルサイズ(1マイクロメートル=0.000001 メートル)の油の粒(油滴)が、アメーバのように変形しながら水中を勝手に泳ぎまわるという、生命体に近い動きを作り出すことに成功しました。

●水中を泳ぎまわる油滴
れまでにも、外部から何も力を加えずに勝手に液体の粒が動く現象は報告されています。たとえば、特殊な加工を施したガラス板の上に置かれた油滴が動く現象や、水にも少し溶解するようなアルコールを水面に浮かべた際には、動くだけでなく分裂もするという現象が知られています。一方で、私たちは、石鹸に代表される界面活性剤水溶液に少量の油を添加して混合したエマルション系において、マイクロメートルサイズの油滴が水中を泳ぐ現象を発見しました。

●アメーバのように変形しながら泳ぎ回る油滴
変形する油滴周囲では、泳ぐ方向に対して前方よりも後方において著しく強い流れが生じていました。また、ウンデカナールおよびデカノールは顕微鏡観察を行った室温下(約25 度)で液体でしたが、それらを6対4のモル比で混合したものは、混合直後は液体であったものの、数分後には完全に固化しました。このことは、ウンデカナールとデカノールの間に比較的強い分子間相互作用がはたらくことを示しています。分子間相互作用は共有結合と違い、その周囲の環境によって強さが変化します。油滴内部および界面では流れ場が生じているために、油分子どうし、あるいは油分子と界面活性剤分子の間にはたらく分子間相互作用が時間的、空間的に変化して、あるタイミングで前方では結晶のように固くなり、後方では液体のままやわらかいために、相対的に後方において流れが強くなるものと考えられます。その結果として特異な対流構造が形成されるために、油滴はアメーバのように変形しながら泳ぐものと推定しています。

●私たちが今回発見した油滴は、水中を泳ぎながら外部から物質を取り込んで、内部で化学反応を進行させて新たな物質をつくりだすこともできます。そのような化学反応を通じて油滴が新たな機能を獲得したり、自らを複製したりするといった、より生命らしいシステムをつくりだすことができれば、非生命と生命の間のミッシングリンクを埋める新たな可能性を提案できると考えています。

また、水中を動きまわるマイクロメートルサイズの微小物体は、自然環境を改善したり、生体内を探索,治療したりするための機能材料としての応用可能性を有していることから注目を集めています。なかでも、水中を動きまわる液滴には、有用物質を含ませて目的の場所まで到達させたり、対象物質を環境中から吸収して回収できるといった高次機能をもたせたりすることができます。したがって、今回発見した油滴の挙動を光照射や化合物の濃度勾配といった外部刺激を用いて制御することができれば、水中で障害物が多く狭い領域でも移動できる化学型探査ロボットとして非常に有用であると考えられます。

参照:http://www.rui.jp/ruinet.html?i=200&c=400&t=6&k=2&m=346215

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