カンジダ菌の世界・・・消化器官や肺の粘膜から侵入し、血液や各組織に感染症を起こしてしまう病原性をもった真菌

カンジダ菌の世界

真菌カンジダ・アルビカンス(通称:カンジダ菌)は、通常は無害な常在菌です。しかし、抗生物質治療後や抗がん剤治療後、ストレスによる免疫低下時、または食生活における偏食などが原因で、消化器官や肺の粘膜から侵入し、血液や各組織に感染症を起こしてしまう病原性をもった真菌です。

※他の原因因子として経口避妊薬、ホルモン補充療法、糖尿病またはインスリン抵抗性、妊娠、好中球減少、胃腸粘膜の損傷などもあげられます。

実際にアメリカでは、院内感染の中でも4番目に多い感染症です。また先進国における女性の約75%が一生のうちに少なくとも一度は膣カンジダ症に罹患しています(Lancet. 2007 Jun 9;369(9577):1961-71)。

カンジダ菌は普段は大人しい酵母(yeast)の状態でいます。この酵母を顕微鏡でみると、卵のような形をしており、表面にはコブのようなほんの小さな出芽が見えます。

宿主の消化管環境が常にpH4~6.5(弱酸性)あたりを維持していれば無害の酵母状態でいることが多いのですが、pH7以上の中性~アルカリ環境よりになってくると、カンジダ菌はコブ(出芽)の部分から菌糸(hypha)を形成しはじめます(Odds FC. Candida and Candidosis. second ed. Bailliere Tindall, London,1988)。この菌糸はとても強力な武器であり、各組織への侵入が可能となり、さらに有毒な化学物質を放出します。

しかし、やっかいなことに、たとえ消化管などの環境が弱酸性を維持していても、カンジダ酵母が増殖してしまえばカンジダ自身がアンモニアを分泌し、すばやい速度でその場をアルカリ環境にしてしまうのです(PLoS Pathog. 2017 Feb 23;13(2):e1006149)。こうして、pHを上昇させることで、自身の菌糸を自己誘導させるという、とても巧妙な作用があります(MBio. 2011 May 17;2(3):e00055-11)。このとき単細胞型の酵母から、多細胞型の菌糸へと成長します。

また、カンジダ菌は白血球であるマクロファージに飲み込まれても、マクロファージ内のpHを中和したり、鉄の獲得を可能にする遺伝子を誘導したりすることによって、マクロファージの活性酸素から防御し、中でそのまま菌糸を形成して、そこから逃げ出すこともできるほどです(FEMS Microbiol Rev. 2015 Nov;39(6):797-811)。言い方を変えれば、場合によっては、マクロファージ内で生存し、菌糸を成長させているのです。

カンジダ菌の毒性やその拡大を助長するものは、なんといってもバイオフィルムの形成です。バイオフィルムとは簡単にいえば微生物の巣窟です。バイオフィルムは、カンジダ酵母の増殖、カンジダ菌糸の形成、金属の蓄積、抗生物質への体制、好中球への抵抗性など、カンジダにとって絶好の巣窟と化します。

カンジダの大好物と言えばグルコース(ブドウ糖)ですが、たとえば血液や肝臓のグリコーゲンはグルコース・リッチな場所のためカンジダ菌がアクセスしやすいのですが、仮に低いグルコース濃度の組織に侵入しても、カンジダ菌はタンパク質、アミノ酸、脂質、そしてリン脂質を利用するといったように、代謝経路を変える「代謝の柔軟性」を持っています。本当にとても面倒な真菌ですね。

カンジダの代謝産物アラビノースはアルデヒド基がついた五炭糖の構造です。自閉症の子どもたちの中には、アラビノース濃度が正常値の50倍を超えることがあります。アラビノースはあらゆる生化学反応に悪影響を及ぼします。アラビノースは糖新生を妨害したり、リシンやアルギニンと結合してペントシジンというAGEsを形成してしまい、タンパク質や酵素の構造を劣化させたり、不活化させてしまいます。

最後に特筆すべきは金属の抱合です。ヒトやほか動植物をはじめバクテリア、そして真菌を含むすべての生命の成長と生存には金属が不可欠です。なぜなら、生命は金属を利用して体内のタンパク質や酵素を活性化させるからです。中でも鉄、亜鉛、銅、マンガンは、宿主と細菌の間でこれらの獲得の攻防戦が日々繰り広げられています(Nat Rev Microbiol. 2012 Jul 16;10(8):525-37)。

カンジダ菌が最も好む金属は鉄です。カンジダ菌は、微量の遊離鉄だけでなく、宿主のフェリチン、トランスフェリンなどの鉄タンパク質から鉄を獲得する仕組みを進化させています (FEMS Yeast Res. 2009 Oct;9(7):1000-12)。特に、カンジダの「菌糸」がフェリチンと結合することで鉄獲得に寄与します。これは菌糸の先にあるアドヘシンやインベイシンALS3というタンパク質がフェリチンの受容体となるからです(PLoS Pathog. 2008 Nov; 4(11): e1000217)。カンジダ菌はほか水銀などの重金属も抱合します(FEMS Microbiol Ecol. 2006 Mar;55(3):479-91)。

カンジダ菌への自然療法アプローチ(ビタミン、抗真菌ハーブ、カプリン酸、糖質選択、微量の硫黄化合物など)はいくつもあり、いずれにしても個体差を判断しての治療となるでしょう。カンジダ菌はいつのまにか侵襲し、とてもやっかいな真菌です。

参照:https://www.facebook.com/photo.php?fbid=1106442149536152&set=a.122416054605438&type=3&theater

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