モンゴル遊牧民の乳製品と健康状態…野菜をほとんど食べずに乳製品を主食に、肉・小麦を中心とした遊牧民の食生活は、先進国特有の「あらゆる食品からバランスよく栄養を摂取しよう」という考えとは全く対極にある

モンゴル遊牧民の乳製品と健康状態

モンゴル遊牧民の食事は、私たちの一般常識から大きくかけ離れたものであり、栄養学的に分析しても不思議である。

野菜をほとんど食べずに、乳製品を主食に、肉・小麦を中心とした遊牧民の食生活は、先進国特有の「あらゆる食品からバランスよく栄養を摂取しよう」という考えとは全く対極にある。

伝統的な食事では1日2食が基本だったらしいが、現在では3食に定着している。この3食ともに乳茶(塩入りのミルクティ)が出される。さらに、馬乳酒、アーロルというチーズ、ウルムという乳脂肪クリーム、ウルムをさらに高濃度にしたシャルトスなど、さまざまな乳製品が毎日出されていた。

昨今、先進国の間では、牛乳が体に良いと言うのは神話であり、むしろ骨粗しょう症にしたり、がんの原因になったり、アレルギー症状を引き起こす悪玉食品である可能性が高いとまでされ、今や、あらゆるところで、牛乳叩きが見られる。

しかし、モンゴル遊牧民130万人の健康維持は、この牛乳や乳製品によって支えられているといっても過言ではない。また、私の手元にある遊牧民の健康調査資料では、血清コレステロール値正常、血圧正常、BMI正常の人が多い。現地にも行って確認したが、骨粗しょう症のように骨が脆いという話はほとんど聞いたことがないそうだ。

乳糖不耐症については、日本人と同じモンゴロイドということもあり、ほぼ差異はない(中尾,1972)。

ところが、先進国での一般の家畜飼育システムと、遊牧民のそれとは全くもって違いがある。

飼料については、先進国の多くが穀物を主体とした配合飼料であるのに対し、遊牧民は草と粗飼料のみである。先進国では抗生物質や成長ホルモン剤の投与があるのに対し、遊牧民ではそういったことはない。日本のミルクの75%は妊娠牛から搾ったものであるため、女性ホルモンの残量が懸念されるが、遊牧民は妊娠牛からは搾乳することはない。先進国の家畜はストールという区画内で一生を過ごす舎飼いが一般的だが、遊牧民の家畜はほとんど放し飼いである。

また、製法についても、日本では130℃の超高熱殺菌法を採用しているが、遊牧民は釜での煮沸殺菌である。また、乳脂肪の脂肪球を均一化したホモジナイズ処理をする日本に対し、遊牧民は当然そんなことはしない。

これだけ違いがあると、当然、質の問題が原因である可能性も高い。

さて、特に今回の訪問の目的としていたことは、マグネシウム摂取量の調査であった。一般に栄養学では、マグネシウム摂取不足下において高カルシウム・高タンパク・高脂肪を続けると、カルシウムパラドックスと呼ばれる、カルシウムの局在異常による障害が起きるとされている。実際に、フィンランド、アメリカ、オランダなどでも疫学で立証されている(Varo P,1974)。

遊牧民が生産する乳製品は、日本の同じ乳製品と比較しても、微量成分が圧倒的に多いが(文献あり)、やはりそれでもカルシウムとマグネシウムの比率はさほど変わらない(10:1ぐらい)。

この疑問の解消は、これから時間をかけて調査していくが、なんとも不思議である。遊牧民の体の中でどういったミネラル代謝がなされているのか、今のところ想像さえつかない。

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