なぜ生命がマグネシウムを利用するようになったのか・・・生命が活動する上で最も重要なミネラルはマグネシウムである

生命がマグネシウムを利用するようになったワケ

生命が活動する上で最も重要なミネラルはマグネシウムであり、そして見方によっては鉄でもあります。原始生命は鉄を利用した代謝がほとんどでしたが、真核生物や多細胞生物が誕生する頃にはマグネシウムをメインの代謝ミネラルに変えていきます。

今日は、なぜ生命はマグネシウムを利用するようになったのかをみていきます。

生命が誕生した約38億年前の海には、鉄(Fe)イオンが豊富でした。生命は鉄の酸化還元電位を利用することにより、あらゆる生理機構を得ることができました。例えば、鉄の酸化還元性を利用したタンパク質である鉄硫黄クラスターは最も起源の古いタンパク質であり、エネルギー発電の場である電子伝達系において今もなお使用されています。

ご存じのように鉄は遊離してしまうと活性酸素を発生しやすいという大きな短所もあるため、私たちの生体内での生理機構において非常に厳戒態勢で扱われます。しかし、生命が誕生した当時の地球の環境は酸素(O2)がほとんでありませんでした。そのため、当時の生命にとって、鉄の危険性はさほどありません。

ところが、地球史上、最大の事件が起きます。それは光合成細菌の一種であるシアノバクテリアが誕生したことで、光合成で生まれた副産物の酸素が海水中に蔓延したことです。当時の生命は嫌気性(=酸素嫌い)だったため、酸素は毒物でしかありません。海中の鉄は現在の数千倍もの濃度があり(今では考えられないが当時の海中ミネラルはFe、Ca、Mg、Na、K、Mn、Znの順で存在していた。そのぐらい鉄に困ることはなかった)、これによって何とか酸素を鉄と反応させ、酸化鉄として解毒していたのです。

しかし、その後シアノバクテリアの異常繁殖に伴い、いよいよ海水中の鉄も尽きてきました。酸化鉄は鉄鉱床として海底に沈殿するからです。鉄が減少したため海中で酸素が増え、いよいよ大気中に猛毒の酸素があふれ出すようになります。

地球における酸素上昇により、好気性(=酸素利用できる)の生命があらわれるようになりました。中でも有名なのは、αプロテオバクテリアという光合成細菌から派生した細菌ですね。これはのちのミトコンドリアです。

そして、嫌気性の古細菌がこの好気性のαプロテオバクテリア(つまりミトコンドリア)を取り込み、酸素利用したエネルギー代謝を獲得します。つまり、真核生物の誕生です。しかし、当時の海水中には利用するのに鉄が少なくなっていたこと、酸素が増えたため鉄利用に危険性が出てきたことなどの理由で、使っていた鉄の一部を他ミネラルに代用する必要性が出てきたのです。

そこで、生命は海水中に豊富に存在していたマグネシウム(Mg2+)イオンを利用するようになります。生命が誕生する前には海水中にはDNAやタンパク質が存在し始めていましたが、実はこれらよりも前にRNAが存在していたとされています。

アトランタのジョージア工科大学の研究者らは、酸素がほとんどなかった初期の地球環境下においては、RNAはもともと鉄の存在下で進化し、鉄によって作動するように最適化されているということを発表しています(2012年)。実際に、その環境下を再現して実験したところ、今ではマグネシウム利用によって作動するRNAに、鉄を利用するとマグネシウムの代わりになったことがわかり、さらにこれらの反応はマグネシウムより鉄の方が優れていたことがわかりました。

これは、以前鉄の利用によって作動していたRNA(や酵素)の多くが地球環境の変化に伴い、マグネシウムに置き換わったことを示唆しています。もちろん、ご存じのように、全てが置き換わったわけではありません。鉄の酸化還元電位を利用した反応はミトコンドリアをはじめ、今でも多くの生理機構の中に残されています。海水中から枯渇した鉄を求めて、生命はこの後、いよいよ食物連鎖の道を歩み、それによって鉄を得る方法を得ました。

生命がマグネシウムを代謝の基本ミネラルにしたのは以上のような理由があるからです。マグネシウム(Mg2+)は、ATPと複合体を形成し、ヌクレオチドや酵素との複合体を形成する、最も重要な代謝ミネラルです。鉄が枯渇したことによって生命が絶滅を回避した唯一の方法が、マグネシウムという代用のミネラルを獲得したことだったのです。

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