切断された指、「魔法の粉」で元通りに…失われた腕・足・器官の再生にも光明か

超音波による骨の再生

 
 リー・スピーヴァック氏のケースでは、骨まで失っていなかった。我々は骨折しても再びつなぎ合わせる能力は備えているが、骨を大きく欠いてしまった場合、それを再生することはできない。それが可能となれば、再生医学は大きく発展する可能性がある。
 
 実は、そんな骨の再生が、歯や顎の骨においてはすでに成功している。

 06年6月、カナダのエドモントンにあるアルバータ大学の研究者らは、低出力超音波パルス技術によって歯や骨の再生が可能なことを発表した。同大学歯学部教授のタレク・エル・ビアーリ博士は超音波を利用し、歯に刺激を与えて再生させる可能性に注目してきたが、口腔内で使用するため、無線で操作可能な小型の超音波発振器を求めていた。

 そこで出会ったのが、同大学の工学部教授でナノ回路設計のエキスパートであるチエ・チェン博士である。そして、チェン博士は、豆粒よりも小さな無線式低出力超音波パルス発振器を開発した。それは患者の口の中に入れられ、歯列矯正器や取り外し可能なプラスチック歯冠(クラウン)に取り付けられる。そして、優しく歯茎をマッサージして、根から歯の成長を刺激するのだ。毎日20分、4カ月間継続することで歯の成長が促進されるという。

 エル・ビアーリ博士は、1990年代にはウサギの歯系組織の修復に低出力超音波パルスを与えていたが、今やヒトの歯や骨に対しても幅広く応用できる段階に到達している。破折歯や病んだ歯、不均整な顎骨の修復だけでなく、ホッケー選手や子供たちが歯を折った際にこの技術を使用できる。例えば、顔面片側萎縮症の患者は、これまでは繰り返し外科手術を行う必要性があったが、この技術を下顎(の骨)に対して使うことで、手術なくして、成長を促進して修復し得ることを発見している。

 彼の研究は歯科矯正学を専門としたアメリカの歯学誌「アメリカン・ジャーナル・オブ・オルソドンティックス・アンド・デントフェイシャル・オルソペディクス(American Journal of Orthodontics and Dentofacial Orthopedics)」に発表され、05年9月にパリで開催された世界歯科矯正学会で紹介されている。

同調を促すものが効く?

 2009年7月、サンショウウオの再生能力は、多能性細胞ではなく、切断された元の組織を記憶している細胞(組織特異性細胞)で行われていることが米フロリダ大学の研究者グループによって明らかとされた。また、ニューヨーク州立大学の教授ロバート・ベッカー博士が発見したように、失った四肢の部分(患部)をマイナス帯電させ、電位差の勾配を生み出すことで再生が促されることから、人工的に患部に電流を与える治療でも効果が得られることがわかっている。

 以上のことを振り返ってみると、我々の自己再生能力は、通常では発動しないが、眠っている部分があり、それを呼び起こす方法が少しずつ見えてきている段階にあるように思われる。代替科学研究者の筆者の考えでは、本来、生物は臓器や細胞レベルであれ、同調を求めるとともに、同調するようにできている。これが鍵になるのではなかろうか。

 ご存じのように、日本においては、iPS細胞やES細胞といった万能細胞(多能性幹細胞)による再生医学が急速に発展しつつある。そこでは、事前に培養しておいた細胞を患部に施用し、患者の体に馴染ませる(同調させる)ことが前提となる。だが、逆に言えば、同調しようとする性質が利用されているようにも思われる。

 この物質世界においては、同じ素材、同じサイズの物体同士が集まり、特定の周波数の振動・波動が与えられると、それらは秩序だって連動する傾向が見られる。もちろん、生物は細胞という均質なユニットで構成されており、その条件は揃っている。

 同調に必要なことは、常時、振動・波動が隅々まで行き渡ることである。それぞれの細胞というユニットを同調的に活動させるためには、その周囲に信号を伝えると同時に支える物質が必要となる。それがまさにコラーゲン・ヒアルロン酸・プロテオグリカンなどに満ちた細胞外マトリックスなのである。おそらく、細胞外マトリックスは、各細胞を同調的に振動させる能力が高いがために、「妖精の粉」のように粉末に加工されても、なんらかの形でその能力が残されるのではなかろうか。

 一方、超音波による振動は、物体を構成する粒子や細胞の隅々にまでその振動を伝えることに役立つ。また、患部に電位差を生み出し、急いで電気を流し、振動・波動を伝えられれば、再生を効果的に促しうる。健康な生物は、体を構成するすべての細胞を同調させていると考えると、再生医学の鍵はその状態へと導く術を確立することにあるだろう。細胞間の共振を促す細胞外マトリックスを利用することも、患部に電気を流し、振動(超音波)を与えることも、最終的に同じゴールへと向かっているように筆者には思える。

 今後は、これらをうまく組み合わせることで、再生医学はさらに飛躍していくようになるのではなかろうか。

http://www.rui.jp/ruinet.html?i=200&c=400&t=6&k=2&m=331042

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