日本で人口減少が進む本当の理由 今の少子化対策は正しいのか

■もっと大きな要因
 
出生率について考えるとき、そうした景気や個々の収入の不安定さよりももっと注目すべきことがある。11年まで人口問題研究所が出していた「合計特殊出生率の要素分析」を見てみよう。
 
ここに出てくる「有配偶出生率」というのは既婚女性の出生率のこと。その変化を数値で示している。これをみると、1980年代以降、既婚女性の出生率は徐々にではあるが上がっていることが分かる。だから「子育て環境が悪くなっているから子どもが産めなくなっている」というのは、正しくないということだ。
 
さて、もう一つの表「有配偶率の変化による影響」をみてみる。これは、結婚している女性の割合の変化を表している。こちらは80年代以降、大きく下がっているのだ。
 
この二つのデータが意味しているのはこういうことになる。すなわち、「出生率低下の原因は、子育て環境が悪いからではなく、結婚する女性の割合が減ったことにある」ということなのだ。国勢調査のたびに厚労省が発表している50歳時の未婚割合(生涯未婚率)をみても、結婚する女性の割合が減っていることは裏付けられている。それによると、2005年の女性では7・0%、それが15年には14・06%になっている。
 
無論、結婚を選択する、しないは個人の考えに基づくものであり、その判断は尊重されねばならない。だからそのことの是非をここで議論するつもりはない。ただ、このことから言えるのは、少子化対策として子育て環境の整備の予算を組んでいることの不自然さである。「合計特殊出生率の要素分析」は12年以降は発表されなくなり、代わって「夫婦の完結出生児数」なる統計が登場する。そこには「子育て環境の整備」に都合の良い数字が並んでいる。
 
■急激に進む出産適齢期の女性人口減少
実は、出生者数を押し下げている最大の要因がある。統計上最も出産の機会が多い25歳~39歳の女性の人口が今、激減している。10年には1264万6千人だったものが、15年には1099万3千人とわずか5年間で1割以上減っているのだ。20年は994万人と、たった10年で2割以上も減ると推計されている。
 
なぜこんなことが起きているのか。戦後間もない頃には約270万人いた出生者数が、その後十数年で160万人程度に激減しているのだ。敗戦後の復員や旧植民地からの引き揚げなど、国内人口急増の中で、飢餓対策から優生保護法の改正により経済的困窮を原因とする中絶が是認され、出生者数はなんと4割も減ってしまった。これは事実上の産児制限だ。その世代の影響が時間をおいて今も続いているのだ。これはすぐに解決できるものではない。
 
■政府の二つの罪
「人口減少の原因は少子化にある。それは子育て環境の悪化によるものだ。だから子育て支援が最大の少子化対策だ」。ここまで読めば、こうした主張の誤りはわかっていただけただろう。人口減少の原因は死亡者数の増加によるものであり、出生数の減少は生涯未婚率が上昇したこと、さらに25~39歳の女性の人口が急減していることが原因だ。

そうであるなら、政府の施策は今のままで良いのか。私は政府の二つの罪を指摘したい。

社会福祉の重要課題の上位に子育て支援が来ているのはいかがなものか。もちろん核家族化が進んでいる中で、環境整備として子育て支援をするのは間違いではない。政策の優先順位が違うということだ。例えば、貧困や就業難で結婚したくともできない人、子どもを持ちたくても持てない人々はどうなのか。社会福祉は、本当に困っている少数の人々を、その他の大勢の人々でサポートするものであればこそ、持続可能な社会制度たり得るのだということを忘れてはならない。

さらに、説明した通り、急速な人口減少の流れは変えられないのだから、これから必要なのは人口減少を前提とし、その中で豊かな社会を模索するための政策立案であるべきだ。それをせず、少子化対策に予算をつぎ込めば人口問題は解決できると強弁するのは、方向性が誤っている。予算の公平で適切な配分という側面からも、政府はもう一度事実を見つめるべきだろう。

参照:http://www.rui.jp/ruinet.html?i=200&c=400&t=6&k=2&m=358289

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