「ホームレス大国アメリカ」の現実 世界覇権どころではない国内の疲弊

長周新聞リンクより

リーマン・ショック後、米連邦準備理事会(FRB)は、大銀行などの金融資本を救済するため量的緩和(QE)で膨大な紙幣を市場に供給してきたが、それはさらに極端な富の集中と偏在を進め、多くの国民はバブル経済の外側に追い出され、住居すら持てない貧困状態が蔓延している。米国の政策を後追いする日本の将来を考えさせる実態がそこにある。

 米政府が公式に発表している全米のホームレス数は55万4000人(米住宅都市開発省調べ、2017年1月時点)で、そのうち路上の生活者は19万3000人と2年前から9%増加した。だが、ホームレス支援のNGO団体は、「同省が把握している数値には、住宅がなくモーテルなどで共同生活を送っている数百万人規模の米国人を除外している」と指摘しており、実態はその数倍にのぼると見られている。

 昨年11月、シカゴ大学が発表した報告書では、ホームレス状態にある学生が全米で少なくとも420万人にのぼり、そのうち13~17歳は70万人、18~25歳が350万人という衝撃的な数値が物議を醸した。

 また、約46万人の学生を擁するカリフォルニア州立大学(全米最大)が委託した調査によると、同大学では10人に1人にあたる約5万人の学生が特定の住所を持たないホームレス状態にあり、さらに5~4人に1人にあたる10万人が食べ物の確保ができていない。路上や施設で暮らしたり、定住先を持たないため友人や知人などの家を渡り歩いたり、「カウチ・サーフィン(インターネット上で提供される無料民泊)」で日日をしのいでいるという。学歴社会のアメリカでは高校を卒業していない人の年収は大卒の半分以下で、失業率は3倍近くにのぼる格差があり、将来のために高利子の学生ローンを組んで進学するものの、アルバイトをしても巨額の返済金と生活費をまかなえず、多くが借金を抱えたまま路頭に放り出されている。

 その貧困状態が薬物や暴力といった社会問題を作り出しており、アメリカでは子どもが成人を迎える前に死亡する確率が他のOECD諸国(先進19カ国)と比べて57%も高い。銃による死亡率は82%も高く、とくに黒人未成年者の主要死因となっている。

 さらに、妊娠25週以下で産まれる“超未熟児”の増加や病気による新生児(1歳未満)の死亡率も他の先進国と比較して76%(約3倍)も高く、毎年約2万人もの子どもや未成年者が死亡していることを、ジョンズ・ホプキンズ病院の研究チームが健康情報誌「health affairs」(今年1月)に掲載している。医師らは、「慢性的に高い貧困率、反映されない教育の成果、相対的に乏しい社会福祉は、米国を先進国の中で子どもが誕生するのに最も危険な国とさせている」と結論付けている。

 2016年の公的調査では、全米のホームレスの人種比率は、白人が26万5660人(48%)と最も多く、次いでアフリカ系の21万5177人(39%)、ヒスパニック系は12万1299人(22%)、多人種は3万9525人(約7%)、原住民インディアンは1万5299人(3%)、太平洋諸島系は8734人(2%)、アジア系は5603人(1%)となっている。移民層よりも地位が保障されている白人層のホームレスが多く、「白人層の地位向上」を約束したトランプ政権のもとでもこの傾向に変化はない。単純に人種間の格差だけでは片付けられないほど貧困化が加速している。

 メディアの多くは、トランプ政府の下で米株価が上昇し、アメリカがリーマン危機を乗り越えた「好景気」の渦中にあると報じているが、その金融市場の活況と反比例して実体経済は完全に行き詰まっている。さらにトランプ政府は、リーマン危機後に公的資金を注入するかわりに定められたドット・フランク法(金融規制改革法)の廃止、法人税の大幅引き下げ、個人所得税控除の引き下げを進めているが、それはホームレス社会をさらに蔓延させ、実体経済から乖離した金融バブルを膨らませるだけでしかない。

参照:http://www.rui.jp/ruinet.html?i=200&c=400&t=6&k=2&m=354603

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