新型コロナ、なぜ希望者全員に検査をしないの? 感染管理の専門家に聞きました
新型コロナウイルス(COVID-19) 、不安でたまらないのに医療機関に行っても検査をしてくれないという不満の声があちこちから聞こえてきます。なぜ医師は検査をしてくれないのか、そもそもその検査に意味はあるのか、感染対策のプロである聖路加国際病院、QIセンター感染管理室マネジャーの坂本史衣さんに一から教えていただきました。
ーー新型コロナウイルスが流行し始めてから、「PCR検査」という言葉をよく耳にするようになりました。どんな検査か教えていただけますか?
患者さんから採取した検体(鼻やのどを綿棒で拭った液)のなかに新型コロナウイルスの遺伝子があることを、遺伝子を増幅させることで確認する検査です。
ーー検査の精度はどれぐらいだと考えたらいいのでしょうか?
検査の有用性を評価する指標に、「感度」「特異度」「的中率」があります。
感度とは、その検査が、陽性の人を正しく陽性と判定できる確率です。新型コロナウイルスによる感染症 (COVID-19)を引き起こすウイルスである「SARS-CoV-2」のPCR検査の感度は、30~50%や70%だという報告がありますが、いずれにしても100%ではありません。
例えば、新型コロナウイルス は、感染者のウイルス量がインフルエンザの100分の1~1000分の1と言われており、そもそも検出されにくいと考えられています。
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ーー治療法がない中で、それでも検査をする目的を教えてください。
これまでは海外の流行地域への渡航歴や滞在歴のある人や、感染者との接触者を中心に検査を実施して来ましたが、その目的は封じ込めでした。国内でヒトからヒトに広がらないようにするために、陽性者を洗い出して入院させて、初期の段階で芽を摘んでしまおうという考え方だったのです。
しかし、現在はあきらかな渡航歴や滞在歴、患者との接触歴のない感染者が発生しており、検査の目的が「封じ込め」から重症化しそうな患者(あるいはすでに重症な患者)を早く見つけて死なせないことに変わってきています。
COVID-19の患者だということが分かった段階で、試すことが可能な治療法について検討し、経過を予測しながら、重症度に応じて輸液や酸素療法、血圧を上げる薬などをつかって生命を維持できるようにサポートします。
軽症な方は殆ど何もしないで治っていきます。
ーー現状で、無症状の人、軽症の人に検査をやる意味は薄いとされていますね。検査の目的が変化しているからですね。
封じ込めを試みていた段階が終わりに近づいていますし、陽性と分かっても治療法(=できること)がないからです。今は資材や医療スタッフ、時間などの限りある医療資源を重症者のために優先的に使う必要があります。
今後は病院でも検査ができるように準備が整えられていますが、すべての病院で実施できるようになるわけではありません。
このような中で無症状あるいは軽症な方にまで検査を拡大すると、重症な患者さんの検査が後回しになる恐れが生じます。
また検査のための手続きに時間を取られ、重症な患者さんの治療に割く時間が減ってしまうことに繋がります。
広まる陰謀論「日本で検査が少ないのは政府が感染者数を少なく見せたいからだ」
ーー「韓国に比べて検査数が少ないのは日本政府が感染者を少なく見せたいからだ」というような陰謀論が広まっています。これについてはどうお考えですか?現場で感じているのは、検査のキャパシティーを増やしているという割には、重症で本当に検査が必要な人がすぐに検査できない状況があるのは確かだと思います。
それは検査センターも手一杯で、検体を出したいと言ってもなかなか受け入れられない実情があるからだと思います。ですが、やはり必要な患者さんには速やかに検査ができる体制を一刻も早く整えることは大事だと思います。
ただ、それは軽症の人も含めて全部検査しろということではありません。国ごとに段階や医療体制が異なるので何が適正な検査数なのかを考えるのは難しいです。
韓国は新興宗教団体を中心に短期間で爆発的に広がったという特殊な状況があり、今は接触歴を追いながら封じ込めるために検査数が増えていると考えられます。
適正な医療とは何なのかということを考えて、今の段階で無症状の人を捕まえて、感度がそれほど高くない検査を行えば、あてにならない結果がどんどん出てきます。
感染した人を全員知りたいのですか?と考えた時に、そのデータを知って有益なのかという問いに答える必要もあります。無限に資源があるならやってもいいと思います。もはやそれは研究となりますが。
SNSでは「サンプリングをしても現状を把握した方がいい」という意見が流れてくるのですが、今は医療機関にも検査機関にもそんな余裕はありません。限られた資源をどうしたら有効活用できるか考えた時に、8割は軽症で済む病気だということをまず押さえないといけません。
この病気で今一番力を入れるべきは、高齢者や持病を持っている人が重症化して亡くなってしまう可能性を限りなくゼロに近づけることです。限られた医療資源をそこに振り向けなくてはなりません。
安易に検査を広げることは、そこに注げる資源を減らし、かえって国民にとってマイナスになるかもしれません。
では私たちはどのように行動したらいいのか?
ーー検査を受けられないと不安を抱いている人は、ただの風邪なのか新型コロナウイルスなのか自分で見分けられず、悪化する心配があるからでしょうね。自宅で様子をみることに危険はないですか?
ただの風邪なのか、COVID-19なのかは病院で診察を受けても見分けることが困難です。検査をしても確実に診断ができるとは限らず、仮に感染していたとしても治療の方法はありません。
心配かもしれませんが、知っておいていただきたいのは、感染者の80%は軽症で、1週間ほど風邪のような症状が続いて治ってしまうということです。また、お子さんはなぜか感染者も重症者も非常に少ないですし、妊婦さんも今のところ重症化しやすいという報告は出ていません。
重症化する危険があるハイリスクな人は、だいたい50歳より上の方や持病のある方ですが、COVID-19の進行は比較的緩やかですので、風邪症状が出たら慌てずに休養し、症状を注意深く見守ってください。
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