台風19号の傷跡その後。重層化したコミュニティが活きる藤野の防災

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世界中で気候変動に対する決断が求められる昨今。奇しくも2019年は日本国内においても自然災害が顕在化し、各地で大きな被害をもたらしました。
神奈川県相模原市の藤野エリアもまた、台風19号によって大きな被害を受けた地域です。約2ヶ月が経過した今も復旧作業は進行中ですが、台風の直後における地域コミュニティはどのような状況だったのでしょうか。
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現状を把握しながら、具体的にはどこが問題で、それは誰と解決すべきことなのかを考えることが大事だと思いました。
たとえば、避難場所には行政から臨時の担当者が交代でついていましたが、彼らに「自分の家に入った土砂はどうしてくれるのか」とか「引越したい」とか「手元に現金がない」という相談をしてもすぐに回答は得られませんし、行政では対応ができない範囲のこともあります。
そこで私たちは、台風15号の際に館山の支援を一緒にしていた地域の仲間たちでメッセンジャーのグループをつくり、どこの避難所で何が必要になっているか、各自治体がどんな状況にあるのか等、タイムリーに共有するようにしました。

藤野には以前から、「萬(よろづ)」(*)という地域通貨が機能しており、単なる物品の受け渡しではなく、困ったときの情報交換や助け合いのカルチャーが色濃く根付いています。この、助け合うことを気負わない基盤が活かされ、避難所の「困りごと」にもすぐ対応できる人が動き始めます。
「果物が食べたい」「布団がない」「プライバシーのためにテントが必要」「朝ごはんがほしい」「服が足りない」といった具体的な情報が共有され、多くの困りごとがその日のうちに解決され始めました。
地元の市議会議員さんも積極的に情報共有に参加し、自宅が半壊や全壊した人の転居に関する支援策も10月末までに決定しました。また、一時的とはいえ避難所暮らしの方々のために、炊き出し、マッサージ、音楽演奏会といった慰問活動も行われました。
こうした多方面の問題解決が同時進行できた背景には、行政を含めた地域コミュニティ同士の連携があったそうです。

救助活動には自衛隊が来てくれていましたし、住宅被害や転居といったことは地域の方々や、市議会議員の方から情報が上がり、行政が素早く対応するなど、いわゆる「公助」がしっかり働いてくれていたと思います。
しかし初動におけるボランティア活動や、すぐにニーズに応えるスピード感は地域コミュニティーの方が早く確実に対処できました。特に、この地域の様々な個人や団体が横につながり、同じ目標に向かって連携できたことが良かったと思っています。
たとえば、「避難所の洗濯機が足りない、乾燥機も必要だ」というニーズを地域活動をしているNPOがヒアリングをし、それを設置するための運搬や工事は地元の商工会の青年部や青年会議所のメンバーが対応してくれました。
また、「炊き出しは足りてきた」ということがわかれば、支援金は頑丈な土嚢袋の購入代に当てる、といった状況に合わせて判断も素早くできました。公助の足りてないところを「共助」で補えたと思います。

前述したように50ほどの集落の集合体である藤野ですが、いまでも地元の方々は場所を示すのに旧名を使うのが一般的です。それらは旧名であるため地図上にはなく、サポートに入っている(地元在住ではない)行政職員には把握しきれません。
さらに、個々の家にどんな方が何人家族で住んでいるのかといった情報は、日頃から地域同士のつながりがない限り知る由もないこと。こうした行政側の手が届かないことも、地域コミュニティの連携によって情報やリソースがロスなく活かされました。

○重なり合うコミュニティが「共助」となり、「自助」も高めていく

今回は特に「重層化したコミュニティ」が大切だと実感しました。
たとえば私は藤野にあるシュタイナー学園の保護者で今年は地域の自治会長、また、トランジションタウン活動などもしていますが、それとは様々に異なるコミュニティがあります。地元の農家さんだったり、飲食店ごとの集まりだったり、PTAだったり。そういう様々なコミュニティの円が重なって、いかしあうつながりが生まれる。そんな重なるコミュニティの双方に関わっている方が多くいることが大事かなと思っています。
かつての家族は、みんな同じ集落に住みそこで働くといった限られた生活圏でしたので、家族ならそれぞれの人間関係はほぼ重なっていたと考えられますよね。しかし、現代では所属する会社と住む場所が違うことも多いですし、家族内でもそれぞれ別のコミュニティに属している。防災や助け合いという観点から見ると、ひとつのコミュニティやつながりだけでは柔軟性が低くなると思うんです。それらが少しずつ重なっていることが「レジリエンス」につながると感じました。
都市部の場合は特に、災害時の脆弱性が予想されるので、できれば近隣住人との日常の交流がある方が、いざという時に助け合えるのは間違いありません。

昨今、目にすることが増えた「レジリエンス」というキーワードは、いざというときの回復力や復元力を意味する言葉ですが、地域通貨や地域エネルギーといった取り組みを続けてきた藤野はまさにレジリエンスが高い場所です。復旧工事や避難生活をされてる方などの課題は続いているものの、日頃の取り組みが緊急時に活かされた実例を教えてくれました。

同時に、公助・共助に合わせてやはり「自助」も欠かせないことがはっきりしました。停電しても電気が使えるように備えたり、食べ物の入手先をいくつも把握しておいたり、避難場所の認識など、知っているだけで済むことはまだまだあるはずです。そして、ただ知識を持っているだけではなく、日常に組み入れることが大切です。
防災袋を買ったままではなく開けて使ってみる、緊急用グッズなどを1つか2つは普段のバッグに入れておいたり、実際に使ってみたり、日常の生活の中で慣れておくことを伝えていきたいです。また、自分だけの学びにせず、知ってることを共有し合うことで、それぞれの「自助」の力を高め合うことも大切だと思っています。

2019年に続いた自然災害、みなさんのコミュニティではどのように振り返りましたか。藤野の話を参考に、未来に向けて具体的な行動を始めてみるのはいかがでしょうか。

参照:http://www.rui.jp/ruinet.html?i=200&c=400&t=6&k=2&m=352530

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