ヒトの体は生命が誕生した38億年前から連綿とつづく命の環の一つであり、そこには過去から進化してきた痕跡が確かに残っている。

ヒトにのこる進化の足跡
リンク より以下、抜粋転載。

■「退化」の進化学

人類の起源をどんどんさかのぼると、霊長類、哺乳類、脊椎動物の共通祖先へ、そして無脊椎動物から単細胞生物、ついには原核生物にたどりつく。つまり私たちヒトの体は生命が誕生した38億年前から連綿とつづく命の環の一つであり、そこには過去から進化してきた痕跡が確かに残っている。

血を舐めれば塩っぱいが、これはかつて海で生命が誕生したなごりである。体が左右対象なのは脊椎動物に共通の特徴で、かつて尻尾で水中を泳いでいた証拠にほかならない。首の下から腕がのび、股の間に肛門が開くのも、魚の胸ビレと腹ビレから四股ができたことを示している。

こうした体のつくりの進化にともなって、器官の中には消えていくものもあれば、形を変えて他の機能をもつものも現れた。発生や進化の過程で退行的進化をとげて形や機能が縮小したものを「退化器官」、機能しなくなったがかろうじて残っているものを「痕跡器官」という。たとえば、男の乳首は痕跡器官であり、親知らずや足の小指などは退化器官である。

■「進化」と「退化」
生物学用語の進化(evolution)というのは、ある種から新たな別の種が生まれることである。別種なので体の大きさや形に違いがあり、元の種より体が大きくなることもあれば小さくなることもある。また、「進化」の逆が「退化」と誤解されている。

退化(degeneration/reduction)というのは、器官が小さくなったり、数が減ったり、形が単純化したりすることだが、決して進化の逆ではない。むしろ進化にともなっておこるので、退化は進化の一部だといってもよい。

人体の退化器官をほかの動物のものと比較することで、その退化がはじまった時期がどのくらい前のことなのか、およその見当がつく。たとえば虫垂は盲腸が退化したなごりとされる。軟らかい組織はふつう化石にはならないが、ヒトの先祖筋にあたる現生の動物でその有無を調べることで共通祖先からの派生時期からそれがわかる。

痕跡器官は、胎生期つまり個体発生の初期段階にみられる特徴とかかわりがある。発生学(胎生学)は、受精卵から誕生まで一人のヒトの形ができてくる過程を記述したものである。この過程を個体発生というが、生まれたあとも成長しつづけ、性成熟に達して老化し、死にいたるまでの生活史すべてをふくめて考えることもできる。

★『脊椎動物の胚発生比較図 】リンク段目は、左から右へ進化の過程。2段目は、右から左へ。3段目は左から右へ胎内で進化の過程を得て誕生する。

魚でも哺乳類でも動物はすべて単細胞の受精卵から発生するので、発生初期ほど互いに似るのは当たり前であると表面的な観察に基づき成体の反復を否定する幼系相肖説が反復説をくつがえしたとみるのは早計である。

肝心なのは形づくりの規則性である。たとえば形質の発現に順序があって逆転しないことや、進化するにつれて新たな形質が発生後期につけ加わるため、類似の形がしだいに発生初期段階に組みこまれることである。
(中略)

■腓骨
「手足」と称している四足動物の体肢(たいし)は、肺魚やシーラカンスのような肉鰭類(にくきるい)の胸ビレと腹ビレから進化してきた器官である。これら肉鰭類である魚類のヒレが他の魚類である条鰭類(じょうきるい)のひれと違うのは、ヒレのつけ根に中心となる骨があるかどうかである。

肉鰭類のヒレは、つけ根の一本から分岐や分節をくり返してならんでいる。四肢動物(ししどうぶつ/陸上脊椎動物)は、このグループから進化し上陸して両生類となり、ヒレが脚に変わって陸上を歩くうちに、つけに近い二節が伸びた。

二の腕には上腕骨(じょうわんこつ)、太腿には大腿骨(だいたいこつ)という骨が一本、肘から手首の前腕には橈骨(とうこつ)と尺骨(しゃっこつ)、膝から足首の下腿(かたい)には脛骨(けいこつ)と腓骨(ひこつ)という骨二本がそなわることになった。

両生類の姿勢は、前後肢とも肘(ひじ)や 膝を脇にはりだす側方型である。この姿勢で体をくねらせながら歩く、前後の脚は基本的に同じ動き方をするので形もそっくりである。この段階までは下腿の脛骨と腓骨の長さも太さもあまり違いがない。

哺乳類になると、脚が胴の下にのびる下方型へと全身の姿勢が変わることで、前肢と後肢の形にも違いができる。最大のポイントは、肘が後ろに回り、膝が前に回ったことである。側方型から下方型への変化でもっとも有力なのは、手足の接地点を重心に近づけるためという説である。前後の足の接地点が狭まり、体全体として不安定になる分、運動性が増すように進化したとわかるからである。(中略)

骨の断面が円形に近いほど強度が増すので、互いにうごく必要のない骨は消えて一本化していく。走る機能だけの足であるウマやシカの指が1本や2本になったのはこのためであり、膝関節(しつかんせつ)から外れて体重のかからなくなった腓骨は退化する一方、脛骨はますます太くなる。腓骨の退化や癒合程度、脛骨とのあいだで可動かどうかをみることで、その動物の運動様式までがうかがえる。

■副乳
哺乳類とは子に乳をふくませる動物だから、その乳を分泌する乳腺はもっとも重要な特徴である。卵を産む単孔類にも乳腺はあるが乳頭がない。
乳頭ができるのは有袋類からで、子どもは袋の中で乳首に吸いついたまま育つ。

乳房(にゅうぼう)というのは実はヒトにしかみられない特徴である。ウシやヤギの巨大な「乳房」は家畜化による人工産物で、中は空洞で文字通りミルクタンクにすぎない。乳器は、乳腺、乳頭、乳房の順に進化してきた。(中略)

哺乳類の胎児で四対の乳器の痕跡が認められる時期がある。ヒトでは胎生六週間齢の15mm胚で五対の乳腺原基が観測される。これらの消え残ったものが副乳である。

参照:http://www.rui.jp/ruinet.html?i=200&c=400&t=6&k=2&m=352448

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