Y染色体の主機能は変異の促進ではないか・・・哺乳類のY染色体は、数億年前1400個以上の遺伝子が存在する他の対染色体と同じ巨大サイズだった

哺乳類のY染色体は、数億年前1400個以上の遺伝子が存在する他の対染色体と同じ巨大サイズだったが、その一組の片割れであるY染色体が、今や遺伝子が数十個程度しか乗らない極小サイズになってしまったという仮説から、Y染色体はいずれ消滅するという男性消滅説が一部で叫ばれるようになった。

しかし、トゲネズミの一種(奄美大島、徳之島のトゲネズミ)は、Y染色体が欠損し対だったX染色体単体のみが存在する種だが、オス・メスは存在し現在も種として生存しているので、Y染色体が生決定を担っているという解釈自体が短絡的なものだったとみるべきだ。

例えば、Sry(Sex-determining region Y)遺伝子は性決定遺伝子といわれ多くの哺乳類でY染色体上に存在するが、それはただのスイッチに過ぎず、この遺伝子が発現した後に複雑な過程をへて、どのようにオス化していくのかまではよくわかっていない。

その上、トゲネズミ祖先種においてY 染色体上にあったと考えられる10個の遺伝子についての調査結果は、精子形成に必須と考えられているRBMY1A1遺伝子とSRY遺伝子がゲノム中から消失し、他の染色体に引き継がれていかなかったが、残り全ての遺伝子は片割れのX 染色体の長腕末端部に移動して存在していた。

よって、オス化への複雑で長い細胞分化メカニズムのうち、たった2個の遺伝子(RBMY1A1・SRY) が、なくなっただけで、それを他の遺伝子(例えば98%を占める発現調整を行う非コードDNA)が代替えすることは容易なことだと思う。今でも非コードDNAがオス化への発現調整を担っている可能性は高い。

そうだとしたら、Y染色体が担う機能は何か?

例えば、Y染色体の中身のほとんどは、全DNA98%を占める非コードDNA領域で、繰り返しが多く容易に変化する。また、非コードDNAは遺伝子の発現調整に大きく関わってきていることも最近判明してきた。その上、Y染色体は、自身の中のDNAを高い頻度で入れ替えていることもわかってきた。

だから、Y染色体の主機能は変異の促進ではないか?

生物が外圧に適応する際に、雄雌分化の本質である安定と変異を武器にするが、オスが担うのは変異であり、Y染色体の上記のような特徴は、この戦略と一致している。

ではなぜ、トゲネズミの一種(奄美大島、徳之島のトゲネズミ)はY染色体がなくなったのか?

その謎を解くヒントが、奄美大島、徳之島のトゲネズミは、沖縄トゲネズミと同一種だったが、沖縄トゲネズミだけはXY染色体のままであること、及び、奄美大島、徳之島のトゲネズミのY染色体は消失しているが、別種ほど異なる細胞構成をしていることにあると思われる。

つまり、南西諸島は「日本のガラパゴス」と呼ばれるほど、他の陸地と隔絶されており、沖縄やその他の陸地に比べ、人や他の動物などの外圧が極めて弱く、数億年の間、変異の必要性がほとんどなかったこと。

その状況下で、もともと地続きだった奄美大島と徳之島が、離れていき外圧の極めて少ない2つの島が出来上がり、その中で、奄美大島と徳之島のトゲネズミは異種と思われるくらい独自の進化を遂げた。

その際の、共通項が、変異の必要性が極めて少ないということであり、それを担うY染色体の中の遺伝子のうち、必要なものは安定したX遺伝子側に転座し、残りの部分は消失した、ということではないか?

その傍証として、現在、奄美大島や徳之島では、人の入植、森林伐採による環境の変化や、マングースなどの外来生物に捕食されたことなどが原因で数が激減したため、トゲネズミは絶滅危惧種にも指定されているくらい適応不全に陥っていることが上げられる。

参考
・SRYをもたない哺乳類における新しい性決定遺伝子の同定(リンク

・Y染色体の不思議な進化を探る(リンク

・Y 染色体をもたない哺乳類の性決定メカニズム(リンク

・ゲノム研究で判明した男性染色体の奇妙な特徴(リンク

参照:http://www.rui.jp/ruinet.html?i=200&c=400&t=6&k=2&m=352312

シェアする

フォローする