リンク 人間は本来、もっと違う生き物なのではないかと私は考えています。人生の7割を労働に捧げ、その多くが苦心を伴うものだというのは、人類にとって本当に豊かなことなのでしょうか?
労働文脈では、まるで「シンギュラリティが私たちから仕事を奪う」といった論調が目立ちますが、そもそも人間が“働きっぱなし”の生き物になったのは僅かここ300年ほどの出来事です。歴史から見ても、日本などの先進国における人間の働き方は、そもそもイレギュラーなのではないか、と私は考えます。
それは今の経済を動かしている「中央銀行」の仕組みと歩みを共にしています。1668年に設立されたスウェーデンリクスバンク(現スウェーデン国立銀行)が世界最古の中央銀行ですが、その仕組みは民間組織がつくったものを国営化しています。
つまり今や世界を覆い尽くしている経済自体も、もともとは、たくさんあった可能性の中のいちアイデアに過ぎないのです。それが今、私たちの世界を、人間らしさを失わせるほど過度にコントロールしているとすると、時代が変わったのだから他の方法が出てきても良いはずだと思います。それがテクノロジーやインターネットで可能になるのがこれからの未来なのでしょう。そもそも、なぜ人間はこんなに忙しく働くようになったのでしょうか?
現代は情報と資本が、非常に高い流動性で世界を駆け巡っています。インターネットなどのインフォメーション・テクノロジーの発達で、あまりにも情報と資本の価値が高まりすぎているのではないでしょうか? 私はその結果として、今の経済は次第に縮小するのではないかと考えています。なぜなら、今の情報と資本の置かれている環境下では、多くの企業が利益を出しにくくなっているからです。(中略)
そもそも利益とは、突き詰めれば、ある企業の価値に他の企業が追いつくまでの時間的余裕のことです。つまり、自社が他社よりも優位でいられる時間が利益を生みます。
しかし、世界中でリアルタイムに情報が飛びかう環境では、企業が何か大きな価値をつくってもすぐに真似されてコモディティ化します。自社が他社よりも優位でいられる時間が限りなく短くなっているため、企業の利益がどんどん小さくなってきています。
それゆえに、企業で労働者は忙しく働いているのにまったく儲からない。儲からないので、さらに多く、長く働こうとしているのが今の労働環境なのです。そして、この情報と資本の流動性は高まり続けています。今後は人工知能もそれを加速させるでしょう。その結果として、経済からどんどん無駄が削ぎ落とされていきます。本当に無駄のないシステムの中では、そもそも経済は成り立ちません。
つまり、私たちの生み出したインフォメーション・テクノロジーは今、経済が縮小し機能が低下する一点へと私たちを引っ張っているとも言えるのです。(中略)
私は、インフォメーション・テクノロジーは、最終的には「インテリジェント・テクノロジー」になるものだと思っています。今はまだ情報だけですが、彼ら自身が知性として情報をつくり、私たちに与えてくれるというところまで進化するはずだと考えています。狭義の情報革命は、過渡期のものにすぎず、最終的には彼らが語りだしてこそ本当のテクノロジーだと思います。次に起こるのはまさに「知性革命」です。それを軸にして会社をつくった方がいいと考えたのが、メタップスという会社の始まりです。
そして、これから世界をリードする企業は、経済そのものをつくりだすようになると考えています。今の社会はあまりにも情報と資本の価値が高まりすぎている。それゆえ俯瞰的に見ると、情報の価値を高め、資本にレバレッジをかけてグローバルに展開できる企業しか事業拡大ができない世界を生みつつあります。
なぜこんな極端なことが起こってしまうかというと、経済自体に資本主義以外の競合する概念がないからです。テクノロジーの急速な発展によって、資本主義による経済だけで世界のすべてをコントロールすることが難しくなってきているのです。
そこに私は、人工知能が人間を労働から解放することによって成り立つ、新しい経済圏の実現を目指しています。強力なビジネスモデルがあり、企業の中で経済圏をつくることができれば、すべての「市民」が狭義の国家がつくる経済の中で生きる必要はなくなります。その企業がサービスを使う人全員を社員として雇用し、独自の経済を循環させ、無料で住まいや食べ物を提供すれば、そこに新しい社会の形が生まれる可能性もあるわけです。
たとえばGoogleが、ガードマンを社員として雇用したというニュースが話題になりました。現在、Googleの社員をはじめとするテクノロジー企業に従事する人々の給料が上がりすぎており、彼らが家を買うと、その地域の土地代と家の価格が高騰してしまうため、ガードマンをはじめとする一般市民が同じ地域に住めなくなるという社会問題が発生するのです。その対処法として、Googleは雇用という道を選んだ。
市民としてアメリカ経済圏に属するより、社員としてGoogle経済圏に所属した方がメリットがあるということの好例でしょう。私は資本主義で勝つことよりも、こうした新しい経済圏をつくるための「ひとつ目のドミノ」を倒せる方が重要だと思っています。ひとつの先例がないと人は動けない。その先例になりたいと思っているのです。まずは自分で証明できるのかどうか。それがメタップスでやりたいことですね。
http://www.rui.jp/ruinet.html?i=200&c=400&t=6&k=2&m=320667