甲状腺機能亢進症とビタミンD不足 甲状腺機能亢進症は甲状腺から甲状腺ホルモンが過剰に分泌され、全身の代謝が高まる症状で、そのうち9割以上がバセドウ病です。

甲状腺機能亢進症とビタミンD不足

甲状腺機能亢進症は甲状腺から甲状腺ホルモンが過剰に分泌され、全身の代謝が高まる症状で、そのうち9割以上がバセドウ病です。

※バセドウ病は、TRAbというTSHレセプター抗体が甲状腺のTSH受容体に作用して、甲状腺ホルモンを過剰に分泌させてしまう疾患です。(自分の甲状腺を異物とみなして甲状腺に対する自己抗体ができてしまう疾患)

実はこのバセドウ病はビタミンD欠乏(または不足)によって発症している可能性や、またはビタミンD欠乏によって症状をさらに悪化させている可能性があることを、各国が報告しています。

バセドウ病は甲状腺にだけ特異的に見られる自己免疫疾患ですが、たとえば1型糖尿病、全身性エリテマトーデス(SLE)、慢性関節リウマチ、炎症性腸疾患(IBD)、多発性硬化症のような他の自己免疫疾患もビタミンD欠乏と相関が指摘されており、実際にビタミンDを補給することで、発症を予防することが報告されています(Curr Opin Pharmacol. 2010 Aug;10(4):482-96)。

そして、ビタミンD欠乏はバセドウ病とも関係しており(Endocr J. 2001;58:63-9)、特に女性において高い甲状腺量と結びついています( Endocrine. 2012;42(3):739-41)。

サウジアラビアの報告では、ビタミンD欠乏が認められたバセドウ病患者にビタミンDを補給したところ、血中ビタミンD濃度の充足とともに甲状腺ホルモンの指標であるTSHとFT4の改善が認められました(Clin Med Insights Case Rep. 2014; 7: 83-85)。

中国の北京航空宇宙センター病院によるメタ分析では、1,748人の症例群と1,848の対照群を含む26の研究において、低ビタミンD状態がバセドウ病のリスクを増加させる可能性があることを確認しています(Nutrients. 2015 May; 7(5): 3813-3827)。

日本でも、大分県の野口病院が、バセドウ病患者208人(女性146人、男性62人)の血清25(OH)D値(=ビタミンD濃度)を調べたところ、バセドウ病患者はビタミンD欠乏(25nmol / l未満)は、女性患者の約40%、男性患者の約18%において見られたことを報告しています(Endocr J. 2001 Feb;48(1):63-9)。

しかし、この値25nmo/l (≒10ng/ml)はそもそも甘い(低すぎる)数値です。血清25(OH)D濃度正常値の最低ラインは75nmol/l (≒30ng/ml)であり、目標値は100~175nmol/l (≒40~70ng/ml)と考えています。

さらに同研究では、冬季になると女性患者の約58%に25nmol/l (≒10ng/ml)以下の値が認められたのです。これは激しい欠乏と言わざるを得ません。

中国の瀋陽女子病院産婦人科の発表においても、低ビタミンDレベルがバセドウ病と橋本病の発症と相関しており、血清25(OH)D濃度が5nmol/l増加するほど、バセドウ病リスクが1.55倍の減少、橋本病リスクが1.62倍減少することが見出されています(Medicine (Baltimore). 2015 Sep;94(39):e1639)。

スウェーデンのルンド大学による新しい研究においても、バセドウ病患者292人と、対照群2,305人で比較したところ、バセドウ病患者は、対照群よりもビタミンDレベルが有意に低かったことがわかっています(Eur Thyroid J 2018;7:27-33)。ちなみに、血中25(OH)D濃度では、25nmol/L以下(≒10ng/ml以下)は患者群が7.5%だったのに対し、対照群は0.3%であり、26~50nmol/L(11~20ng/ml)では患者群は38.4%だったのに対し、対照群は6.5%だったのです。

甲状腺機能亢進症における、このビタミンD仮説はマウス実験による基礎研究でも裏付けされおり、ビタミンD欠乏食を与えたマウスは、通常食のマウスよりも甲状腺機能亢進症を発症しやすくなったことがわかっています(Endocrinology 2009; 150: 1051-1060)。

また、ビタミンD活性化にはマグネシウムが必須となります。さらに、甲状腺機能亢進症では、甲状腺ホルモンが過剰になるとマグネシウム吸収が低下し、甲状腺機能亢進症の人がマグネシウムを欠乏しているリスクが高くなることが報告されています。また、甲状腺機能亢進症またはバセドウ病の人には、マグネシウムを補給する心臓の動悸に効果があることが分かっています。

最後に、セレンも甲状腺機能亢進症の進行を抑制することも書いておきます。甲状腺は基本的に全組織の中で、単位重量あたりのセレン濃度最も高い部位です。セレンは、甲状腺ホルモンを活性化する酵素の補因子となるからです。

イタリアのピサ大学の研究では、軽症のバセドウ病で眼球に障害が出ていた159人の患者に対して、セレンを投与したところ、眼球障害を軽減し、バセドウ病の進行を遅らせたと発表しています(N Engl J Med. 2011 May 19; 364(20):1920-31)。

他にもクロアチアのザグレブ大学の2つ臨床研究においても(Clin Chim Acta. 2004 Mar;341(1-2):55-63 ; Acta Pharm. 2004;54:79-89) 、ドイツのデュッセルドルフ大学の臨床研究においても(Med Chem. 2007 May;3(3):281-4)、バセドウ病患者にセレンを投与することは、非常に良い結果をもたらしたことが発表されています。また、デンマークのコペンハーゲン大学病院による無作為試験でも、セレンは甲状腺の自己免疫に対して減弱化をはかったことを報告しています(Trials. 2013; 14: 119)。

以上をまとめると、甲状腺機能亢進症(特にバセドウ病)では、ビタミンDの低レベル状態に大きな問題があり、さらにマグネシウムやセレンを投与することで、症状を低減する可能性があるということです。

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