鶴岡で広がる古くて新しい暮らし方「ナリワイ」好きなこと、得意なことを小さなビジネスに。2

■話を聞くだけでなく、実践する工房へ発展
13年では、実際の動きが見られませんでした。だからこそ14年こそは何かしらの動きをつくろうと思いました。そこで、一歩踏み込み、本気でビジネスをしたいという方だけを対象に、それを支援する場として“ナリワイづくり工房@鶴岡(※2)”を開いたのです。
気負わずに、“部活のノリ”で、好きなこと・得意なことを世の中に役立てて、それを小さなビジネス(=プチ起業)にする。まずは、Facebookを利用してイベントを立て、実践する。はじめに行動をとることで、ビジネスをする上で自分に足りていないところを知り、そこを補うための学習をしながら取り組みを進めました。そうすることで、12月の時点でメンバー中8人がプチ起業するまでになったのです。
ひとりは、空き家問題をなんとかしたいと、リノベーションのビジネスを。
また、ほかのひとりは採りきれなくて放置された柿を農家さんに分けてもらい、干し柿に加工。農家さんにはお礼として干し柿を提供し、手元に残った分を販売するビジネスをはじめました。昔はどの地域でも、秋になれば干し柿のカーテンが見られていましたが、今はその風景を見ることはありません。なのでその方は、干し柿のカーテンをつくろうというプロジェクトも事業の一環としてされています。
ほかにも、鶴岡名産のシルクを使ったプチ起業など、考えてもみなかったおもしろいナリワイが立ちあがりました。

■“ナリワイ”は地域の受け皿になる。
プチ起業をした方の多くが子育て中のお母さんで、家事や子育ての空いた時間に自分がやりたいこともしたいという方々。そして、彼女たちの動機は、自分自身が楽しんで、それを同時に誰かの役に立たせたいというものでした。主たる目的が、収入ではなかったのです。
今の女性のほとんどの方が、一度働いたキャリアを持って結婚し、出産します。子育て中のお母さんの中には、それまで培ってきたスキルを使い、社会との接点を持ちたいと考えている方がたくさんいるのですね。今、私たちが取り組んでいる“ナリワイ”は、そういう方たちがはじめやすい仕事のカタチなのかも知れません。
それに、UターンでもIターンでも、地域に人が集まるには、仕事・家・豊かな自然と文化、そして仲間が必要だといわれていますが、自然も文化も大都市以外は日本中どこにだってありますよね。では、仲間はどうやって見つけるのでしょう。都会から地方へ引っ越してくる人は、都会の感性を持ちながら田舎暮らしを楽しみたいという気持ちが大きいのだと思います。
そういった方には同じ価値観や方向性を持つ仲間、地縁というよりは価値縁と呼べるもので繋がっていくゆるやかな仲間が必要なのだと思います。その意味では、“ナリワイ”や、それを行う上で生まれる繋がりは、何かをはじめたい方と移住者の方双方にとっての受け皿になるのではないでしょうか。私は、この取り組みを進める中で、そのように感じています。

■住みやすい、戻りやすい地域へ。
地域の課題を考えれば、行政の力だけでは到底解決できないことが山積みです。それを解消するには、そこにいる住人が何かしら社会的行動をとることが必要で、しかも多くの人が動かないとだめ。そのためには動く人、つまり自分で考え主体的に行動できる人を育てていく必要があります。私たちの取り組む“ナリワイ”は、そんな人材を育てる仕組み、また一方では移住者が入ってきやすい環境づくりに有効なのではないかと感じています。続けていけば、地域に主体的に動く人が徐々に増えていくと思います。
日本中どこの地方でも、同じような課題を持っていますので、今すぐとは考えていませんが、将来的には研究者にも活動へ参加してもらい、第三者の視点から“ナリワイ”がどのように地域の中でどう機能するかを客観的に観てもらい、ある程度のパターン化ができるならいいですね。第一に、やっている本人自体が楽しみながら取り組めますから、広まるならおもしろいですよね。

■“ナリワイ”に込められた可能性。
私は地方の未来をつくるとか、山形の未来を〜とかって、大それたことは考えていません。自分が孤独死しないように頑張っているだけです。そのためにも自分の手が届く範囲にいる方が楽しく生きていられ、自分の子どもがこの土地を好きでいられ、ちゃんと育ってくれればいい。それだけです。大きなことを考えると、続けるうえでは厳しいものがあると思います。
これからの時代は、異業種のセクター同士が、いかに話し合いの場を持ち、知恵を共有できるか、物事をつくっていけるかという能力が問われます。行政、NPO、また学校や民間企業など、それぞれが違うノウハウを持っている。ひとつの課題を解決するためには、それらのセクターが協力しあって動くことが大切ですから。
地域のみんなが楽しく生きていくためにどうするか?」。そういった課題は、ひとりでは解決できないものです。だからこそ、仕組みづくりが大切だし、必要。今やっている“ナリワイ”は、その仕組みづくりなのだと思います。そして同じ価値観を持つ仲間、また地域の皆さんが一緒に足を踏み出せば、これからちょっとだけ社会がよくなるのではないでしょうか。

 

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