先生はタブレット?

街角で演説しても誰も聞いてくれない。でも、「未来を変えることができることを子どもたちにどうしても伝えたい!」ということで学習塾を開いた神野元基さん。

 しかし、未来の話をする前に、子ども達の成績が伸びないと、話を聞いてももらえないし、そもそも塾をやめてしまうという現実。
 集団指導の場合の50分の授業のうち、意味のある時間は5分程度しかないと気付き、神野さんが開発した教材とは人工知能を搭載したタブレットだった。

リンクからの引用です。

———————引用開始———————–
(前略)

【神野】八王子にある石川中学校に通っている生徒専門の学習塾を開きました。塾では、石川中学の先生一人一人の出題傾向はもちろん、体育祭や合唱コンクールでどのように振る舞えばいい成績に結びつくのかといったことも分析しました。それが評判になって生徒は集まってきました。

【田原】じゃあ、神野さんの話も聞いてもらえた?

【神野】いや、それが難しくて。学習塾ですから、やはり成績が伸びないと子どもたちが辞めてしまう。結局、成績対応に時間をとられて、未来の話をする時間がつくれませんでした。

【田原】それじゃ何のために学習塾を開いたのかわからない。

【神野】はい。本来の目的を実現するには、子どもたちの成績を上げ、なおかつそれを短時間で行い、未来のことを伝える時間を確保する必要がありました。ただ、それはけっして不可能じゃないんです。僕らの塾で調べたところ、1人の先生が30人の生徒に教える集団指導の場合、50分の授業のうち意味のある時間は5分しかないことがわかりました。残りの45分は、すでに自分が知っている話を聞いているか、逆にまったくわからない話をされていて授業についていけないのです。この時間を適正化して50分すべてをその生徒にとって意味のある時間にできたら、学習効率が10倍になって時間の余裕ができるはず。そう考えて、人工知能型教材「キュビナ」の開発に取り掛かりました。

■AIを使った教材「キュビナ」

人工知能を使った教材「キュビナ」。手書き認識機能がついており、生徒はペンでタブレットに文字や図を書いて勉強する。

【田原】キュビナについて説明してください。人工知能を使った教材って、どういうことですか。

【神野】子どもたちにタブレットを配り、問題を解いてもらいます。間違えたとき、どこで躓いたのかは一人一人違います。たとえば方程式の問題で誤答したのは、分配法則がわからなかったせいかもしれないし、移項がうまくできなかったせいかもしれません。その原因を人工知能が解析して、その生徒がわかっていない箇所に関連する問題をピンポイントで出してあげるのです。それを繰り返すうちに弱点を克服できます。

【田原】それは人工知能でないとできないのですか。

【神野】いえ、スキルを持った先生が生徒と一対一で指導すればできます。しかし、現実に行われているのは集団指導で、先生は生徒一人一人がどこでつまずいているのかを把握できていない。それで、先ほど言ったようなムダな時間が生まれていたわけです。

【田原】なるほど。おもしろいですね。

【神野】実はこの教材を開発する前から、プリント型学習をやっていました。生徒にプリントをやってもらい、間違えた箇所によって次に渡すプリントを変えるのです。このやり方で学習効果があがっていたので、あとはそれをIT化して人工知能にやらせればよかった。教育とテクノロジーの両方を理解していれば、必ずしも難しいイノベーションではなかったと思います。

■AIが授業をするようになったら、人間の先生は要らなくなる?

【田原】人工知能が教えてくれるから、人間の先生は要らない?

【神野】いや、教師が要らなくなることはありません。大学受験前の子どもたちは、自分で勉強する動機づけをすることが難しい。そして、勉強に対するモチベーションを湧かせてあげられるのは、いまのところ人だけです。また、学校にクラス制度があるかぎりイジメはなくならず、それに対してアプローチしていけるのも先生だけです。さらにいうと、未来を生き抜く力を身に付けさせるというところも、いまはまだ人間しかできない。人工知能でティーチングのところは効率化できますが、教育の根幹にある仕事は人間が必要だというのが僕の考えです。

Q. 日本の教育の問題は何ですか?

【田原】僕は数学が嫌いです。小学4年生のときに、円を3等分しろという問題が出ました。手を挙げて「円を細かくちぎって3つに分ければいい」と答えたら、先生から「屁理屈だ」と怒られました。大人になってから数学者の広中平祐さんにそのエピソードを話したら、「そのやり方は微分。数学として正しい」と教えてくれた。つまり僕の解き方もあったのに、学校教育は理想の正解を1つ用意して、そこに子どもたちを当てはめようとしていたわけです。

僕はここに日本の教育の問題があると思う。学校では正解のある問題の解き方ばかりを教えます。しかし世の中は、正解のない問題のほうが圧倒的に多い。正解のない問題にどう対処するのか。さらにいうと、自分でどうやって問題を見つけるのか。そこに焦点を当てる教育をしてほしいと思います。

 

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