牛のBSE検査を国が大幅緩和、これまでの危険部位も検査対象外に 前編

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Business Journal より

2016.04.10

危険な牛肉、流通の恐れ…牛のBSE検査を国が大幅緩和、これまでの危険部位も検査対象外に

文=小倉正行/フリーライター

「Thinkstock」より
 今、日本の牛のBSE(牛海綿状脳症)対策を一変させるBSE国内対策見直しによる食品健康影響評価作業が、
食品安全委員会プリオン専門調査会で行われている。

 これまでBSE検査対象牛は、48カ月齢以上の全頭だったが昨年12月、厚生労働省は対象から健康牛を外し、
と畜場で運動障害や神経症状等がある24カ月齢以上の牛のみとすることを食品安全委員会に諮問。
同評価作業はこれを受けたものである。
これにより、ほとんどの牛は検査対象にならなくなる。

 2001年に日本でBSEが発生して以降、全月齢の牛を検査対象とする全頭検査体制を確立していたが、
13年4月から検査対象牛を30カ月齢以上の牛に、同年7月からは48カ月齢以上の牛を検査対象にするよう
規制を緩和してきたが、今回の見直しで原則検査をしないという方向に抜本転換することになる。

海外では発生相次ぐ

 では、世界的にBSEの発生はなくなっているのであろうか。
今年3月には、フランスでBSE感染牛の新たな発生が確認されたばかりか、
昨年はアイルランド、ノルウエー、スペイン、スロベニア、カナダ(以上、各国1頭)、英国(2頭)でBSE感染牛の発生が確認され、
一昨年は、フランス(3頭)、スペイン(2頭)、ルーマニア(同)、ドイツ(同)、ポルトガル、英国、ブラジル(以上、各国1頭)で
BSE感染牛の発生が確認されている。
このように、BSEは決して過去のものではなく、発生件数は少なくなっているものの、現在も発生が続いているのである。

 そのなかでも問題なのが、異常プリオンが含まれている肉骨粉を含む飼料を原因として発生する定型BSEではなく、
原因が不明で発生する非定型BSEである。
前者は、肉骨粉などの動物性タンパク質飼料の使用規制によって発生を抑制することができるが、
もちろん飼料規制が不徹底であれば発生は継続拡大する。

 これに対して非定型BSEは原因が不明であるだけに対策も打てず、発生を抑制することもできない。
現にヨーロッパでは01年から15年までに非定型BSEが90頭も発生しており、
飼料規制が徹底されているなかでも、以下の通り発生が継続している。

・10年:8頭
・11年:8頭
・12年:9頭
・13年:5頭
・14年:7頭
・15年:3頭

脅かされる食の安全

 この非定型BSEについては、3月10日に驚くべき研究結果が農研機構・動物衛生研究所から発表された。
それは、「非定型BSEから新規BSEが出現する現象を確認」という次のような研究成果であった。

「従来型のBSEとは異なる性状の非定型BSEは全世界で100例ほど確認されていますが、
孤発性と考えられる非定型BSEに関する科学的知見は乏しく、リスクの推定は困難となっています。
農研機構動物衛生研究所は、非定型BSEの性状解明に関する研究を進めてきました。
カナダで確認されたH型非定型BSEの材料を牛型プリオンたん白質遺伝子改変マウス(牛型マウス)で
継代培養することによって、新たなBSEプリオンが出現することを明らかにしました。
このプリオンは牛への脳内接種実験で従来のBSEに比べて短い潜伏期を経て、BSEを発症させることが確認されました。
新たなBSEプリオンの出現は、非定型BSEが牛群で継代された場合に病性が変化する可能性を示唆するものと考えられます」
 要するに、非定型BSEが動物で伝達を繰り返すことによって、新たなBSEプリオンが出現する可能性が明らかになった
ということである。
その新た なBSEプリオンは、潜伏期間が従来の16.2~22.5カ月から14.8カ月と短くなり、
脳内の蓄積パターンが異なるものであった。

 では、健康に見える牛を原則検査しないという今回の方向転換により、
この非定型BSEが私たちの食生活に入り込まない保証はあるのだろうか。
この非定型BSEは、高齢牛に発生しやすいと指摘されており、
48カ月齢以上の牛のBSE検査をしてきたこれまでの検査体制であれば排除される余地があったが、
今回の見直しが実現すれば48カ月齢以上の検査はなくなるのであり、この非定型BSE牛が私たちの食卓に入り込む可能性は高くなる。

 さらに、厚生労働省は、これまで危険部位としてと畜場で廃棄していた扁桃及び回腸遠位部、脊柱を危険部位から外すことを求めており、脅威はいっそう増すことになる。

 食品安全委員会プリオン専門調査会は次回から、この非定型BSEについて審議をする予定になっているが、
国民の食の安全を守る防波堤になるかどうか、その真価が問われることになる。

(文=小倉正行/フリーライター)

後編に続く

 

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