たまり続ける日本のプルトニウムに募る懸念 ~原発再稼働で指摘される別の問題~ 原発産の核兵器とは?

「(原発からできる)プルトニウムの核拡散リスクを過小評価しているのが、いまの日本。このままいけば、日本が掲げる非核政策にも国際社会から疑念が高まりかねない」

こう話すのは、長崎大学核兵器廃絶研究センター長の鈴木達治郎氏。昨年3月までの4年間、内閣府原子力委員会の委員長代理を務めるなど、最近まで「原子力ムラ」の中心にいた。その鈴木氏ですら、日本の原発で生み出され続けるプルトニウムが、これからの原子力政策を左右しかねないと心配する。

核兵器廃絶を目指す世界の科学者らが集まり、11月5日まで長崎で開かれた「パグウォッシュ会議」でも、日本のプルトニウム問題は議題になった。参加者らは青森県六ケ所村にある再処理工場の稼働を無期限延期するよう安倍晋三首相宛てに要望書を送った。六ケ所村の再処理工場が動き出せば、さらにプルトニウムが増えるからだ。

■核燃料サイクル 固執する政府
日本が保有するプルトニウムは約47トン。軍事用も含めた全世界のプルトニウム約500トンの10%近くを占め、核兵器保有国以外では圧倒的に多い。(中略)

では、なぜそんなに日本にはプルトニウムがたくさんあり、その何が問題にされるのか。

原子力発電所で使用済みになった核燃料には、重量で約1%のプルトニウムが含まれている。プルトニウムを分離し、再び原発で使えるように加工する作業を「再処理」と呼ぶ。

再処理されて生まれた分離プルトニウムを含む核燃料は、高速増殖炉やMОX炉と呼ばれる原子炉で使われる。なかでも高速増殖炉は、燃料に多く含まれる燃えないウランをプルトニウムに効率よく転換させる能力があり、使った分以上のプルトニウムを生み出すことから、何度でもリサイクルが可能。それが「核燃料サイクル」だが、実用化した国はいまだない。

(中略)

鈴木氏はさらに指摘する。

「もともとはウランの枯渇に備えてできた計画ですが、今ではウランは採掘可能年数が増し、海水にも無尽蔵にあることがわかってきた。早急に開発する必要性が薄まってしまったのです」

先進各国の多くが80~90年代に次々と高速増殖炉の開発をやめる中、日本はあきらめず、核燃料サイクルを続けるために、使用済み燃料をすべて再処理する政策を維持する。

(中略)

■世界の心配は核兵器への転用
ただ、国際的に心配されているのは、日本の核燃料サイクルの破綻ではない。プルトニウムが核兵器に転用される恐れだ。(中略)

米ローレンス・リバモア国立研究所の国家安全保障政策研究所副所長を務めるブルース・グッドウィン氏は、最近東京で開かれたシンポジウムでこう断言した。

「核兵器を作る初期の技術があれば、再処理されたプルトニウムから広島型原爆の破壊半径の3分の1以上になる核兵器が作れる。原子炉で生まれたプルトニウムでは核兵器が作れないというのは誤解にすぎず、現に米国では62年に成功している」

(中略)

国際原子力機関(IAEA)は、プルトニウムが8キロあれば核兵器が製造できるとみている。日本国内の保有量は1350発分に相当する。

IAEAには、核物質の兵器転用を防ぐ目的で査察に入る権利が認められているが、

「査察に入るまでは準備などに4週間が必要。一方、核兵器転用には1~3週間あれば十分。これでは間に合わない」(米・核不拡散政策教育センター理事のヘンリー・ソコルスキー氏)

90年代にホワイトハウスで科学技術政策局次長を務めたフランク・フォンヒッペル米プリンストン大学名誉教授は、強い調子で指摘する。

「日本の核施設は武装した警備員がいないなど、セキュリティーレベルが高いとはいえない。警備員が銃を携帯している米国ですら、核施設の警備体制を検査する模擬攻撃で特殊部隊が原発に潜入し、プルトニウムを“盗み出す”ことに成功してしまったことが一度ならずある。米国はすでに再処理をやめた。日本が再処理を続けようとするのは危険すぎる」

米国だけではない。中国の軍縮大使は10月に開かれた国連総会の第1委員会で、日本の余剰プルトニウムが核武装につながる可能性があると言及した。

(中略)

核拡散ドミノを防ぐ打開策はあるのか。

鈴木氏やフォンヒッペル氏は、全量再処理した後の放射性廃棄物を地下深くに埋めるという政策をやめて、使用済み燃料をそのまま廃棄物として埋設する直接処分(ワンススルー)を採り入れるべきだと提案する。

「地下深くに、拡張される前の羽田空港ぐらいの広さの処分場を一つ作れば、国内で発生する使用済み核燃料をすべて片づけられる」(鈴木氏)

■原発再稼働でさらに増加へ
その場合、使用済み燃料を二重構造の乾式キャスクに50~100年程度、中間貯蔵して熱が下がるのを待ってから埋めることになる。使用済み燃料プールよりも頑丈なキャスクに納めて保管したほうが災害や盗難に対する安全性が高まるうえ、「埋設前に冷ますことで燃料同士の距離を詰められ、貯蔵スペースの節約にもなる」(フォンヒッペル氏)という。

政府は昨年4月のエネルギー基本計画で、使用済み核燃料に関して直接処分の調査研究を進めると明言したものの、この調査研究はあくまでも「選択肢の幅を広げる意味」(資源エネルギー庁放射性廃棄物対策課)との位置づけで、核燃料サイクルの堅持の方針は変えていない。

経済産業省によると、東京電力福島第一原発の事故で国内の全原発が停止中だった昨年3月末時点で、約1万7千トンの使用済み燃料が国内の原発などに貯蔵されていた。その3分の2が再処理を待っている状態だ。

加えて、今年8月の九州電力川内原発1号機を皮切りに始まった再稼働の流れが強まれば、再処理を待つ使用済み核燃料がますます増えることになる。

核兵器問題を扱うアナリストの田窪雅文氏はこう強調する。

「核兵器に利用可能なプルトニウムがあり余っている状態で再処理工場を動かして、さらにプルトニウムを取り出そうなどというのはもってのほか。他の多数の国々がやっているように使用済み燃料を中間貯蔵した後、直接処分するという政策に変えるべきです」

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