国民皆保険制度の罠、保険制度に縛られた歯科業界がひどすぎる件

◇日本の保険歯科医療の現状◇
日本は世界に誇る国民皆保険制度があり、日本国民であれば誰でも安価で医療が受けられます。これ自体は全くその通りであり、ジャーナリストの堤未果さんの言うとおりです。
しかし、日本の保険歯科医療の質はどうなのでしょう? 日本の保険医療制度においては、全国一律同一料金、同一サービスが基本です。いわば国が経営する、医療フランチャイズシステムのようなものです。そこには画一化されたマニュアルがあり、診査・診断、治療の手順と料金(診療報酬)が事細かに決められています。
保険制度はマニュアル化され、システム化されていますから、個々の歯科医院ごとの特色を出すことは難しく、また建前上は出すべきではありません。 要は日本の保険医療機関はマクドナルドのようなフランチャイズチェーンみたいなものなのです。マクドナルドのハンバーガーはどこで食べても味と値段が同じように、日本の保険歯科医療機関で受ける治療もまた、歯科医院ごとの差はほとんど無いと考えるべきなのです。
実際には歯医者ごとの技術の差というのは、厳然としてあります。しかしながら、保険医療機関である限り、その差は皆さんが思っている程にはありません。 そして日本の保険歯科医療を腐らせている諸悪の根源が、日本の低すぎる治療費(診療報酬)なのです。診療報酬が低すぎることが多くの歯科医院経営を逼迫し、診療の質の悪化と不正の蔓延を招いているのです。 ではいったい日本の診療報酬はどの位低いのでしょう?先進国が加盟しているOECD(経済協力開発機構)加盟国平均と比較すると、日本の診療報酬は10年ほど前で1/6~1/8ほどと言われていました。しかし昨今の円安によって、現在ではOECD平均のおよそ1/10と言われています。また、アメリカの専門医の治療費との比較では1/20~1/30ほどでしかありません。
これは患者が窓口で負担する治療費のことではありません。歯医者が受け取る治療費の総額のことなのです。 こんなに低い診療報酬で、日本の歯科医院はやりくりできているのでしょうか?いえ、ほとんどの歯科医院では保険診療のみではやりくりできていません。日本の歯科医院が保険診療で利益を出そうとしたら、一日30人以上の患者を診なければなりません。しかしほとんどの歯科医院にはそれほど多くの患者は集まらず、そのため保険診療だけで成り立たない歯科医院がほとんどなのです。 この現状から日本は歯科医師が過剰だから、という議論があります。しかしながら、日本の歯科医師数は世界的にみても決して多くはありません。日本の歯科医師数は人口10万人当たりで74人、これはアメリカ153人、イギリス97人、フランス67人、ドイツ75人、スウェーデン80人と比較しても、決して多くは無く、むしろフランスに次いで少ない方なのです。
日本の歯科保険診療の問題点は単純に低すぎる診療報酬にあるといって良いのです。しかしながら、多くの歯科医院は低すぎる診療報酬にもかかわらず、経営を続けています。なぜ日本の歯科医院は潰れないのか、そのからくりを次に説明しましょう。 日本の歯科保険医療機関においては、不正が蔓延しています。低すぎる診療報酬によってまともに経営が成り立たない現状で、個々の歯科医院の不正を糾弾するのはお門違いです。歯科医院だって不正をやりたくてやっているわけではありません。そうせざるを得ないから、そうしているだけなのです。
そこのところを踏まえて、日本の歯科保険医療機関の実態を書きます。 歯科保険医療機関においては利益を出すために、主に3つのことをしています。日本の大半の歯科医院が、この3つ全てをしていると考えて良いでしょう。
その3つとは、 ・診療の質を極限まで下げること ・不正請求(架空請求や水増し請求)をすること ・保険外(自費)診療で、ぼったくること です。
まず、診療の質を下げることですが、これは材料費や経費を極限まで下げることは言うまでもありません。その結果、医療機関としての衛生管理や感染予防すら、まともに行われていないというのが実情です。例えば患者の口の中を触るときに手にはめるラバーグローブは、本来患者ごとの使い捨てなのですが、実際は使い捨てせず使いまわしています。
中には浸潤麻酔のカートリッジを使いまわすところもあるようです。こんなことすれば、肝炎やエイズなどを感染させるリスクが高くなります。しかしながら、監督官庁である厚生労働省は、このような歯科医院の実態に対し、何ら指導や改善を促す行為は行っていません。
低すぎる診療報酬を受け入れさせる代わりに、実際の管理は野放し状態とされているのです。 それでもなお、患者数の少ないところでは利益を出すことに腐心しています。そこで実際にやってもいない治療を架空請求したり、本来請求できない治療費を水増し請求したりすることが常態化しています。
特に顕著なのが、歯周病の治療費です。歯周病の治療は患者の口の中に証拠が残らない(詰め物、被せ物は患者の口の中に証拠が残る)ため、実際にはやっていない治療をやったことにして、治療費を架空請求することが常態化しています。
架空請求や水増し請求に関しては、国は医療費抑制の立場から、レセプトをチェックして不正が無いか目を光らせています。しかしながら、あまりに厳しく取り締まってしまうと、ほとんどの歯医者が不正をしていることになってしまうので、特にひどいところだけを取り締まっているというのが現状です。
架空請求や水増し請求でもまだ経営が苦しい歯科医院が大半なのが、今の日本の歯科医療の現状です。このためほとんどの歯科医院では、保険の効かない治療(保険外診療)を熱心に患者に勧めます。
保険外診療の治療費から得た利益によって、保険診療の赤字を埋めようとしているわけですから、保険外診療の治療費には当然保険診療の赤字分が上乗せされています。これが日本の歯科保険医療機関で常態化しているぼったくりの正体です。
そうはいっても、保険外診療で良い治療が受けられるのであれば、多少の治療費の上乗せは我慢するなんて甘いこと考えている人もいるかもしれません。しかしながら、保険医療機関における保険外診療は単にぼったくりなだけでなく、治療レベルも相当に低いのです。
このため近年の歯科治療におけるトラブルの大半がこの保険外診療によるもの、特に保険医療機関で受けた保険外診療によるものなのです。 ここで知っておいてもらいたいのは、日本の歯科医療機関には二つあるということです。一つは保険の歯科医療機関、もう一つは保険医療機関指定を受けていない、完全に保険外診療のみの歯科医療機関です。
保険の歯科医療機関においては、保険診療のルールが厳しく適用されます。保険診療のルールにおいて重要なことが、「定期検診の禁止」や、「傾向診療の禁止」、さらには「保険診療で認められている治療行為を保険外診療で行ってはいけない」というルールが存在します。
また歯科医療機関も保険制度の一部分を成しているわけですから、当然「混合診療の禁止」も適応されます。実は保険でできることは保険でしなければならないというのは、この混合診療の禁止から来るものなのです。 まず定期検診の禁止ですが、歯科保険医療機関で治療を受けたことがある人の多くが、治療が一通り終わった後に、「〇ヶ月後にまた見せに来てください」とか、「〇ヶ月後に定期検診にいらっしゃって下さい」と言われていると思います。
しかしこれは明確な不正です。保険医療機関では「疾病に対する給付」が原則ですから、治療が終わった後の検診行為を行うことを禁じています。このような不正行為を行っている歯科医療機関は、健康保険の支払基金から金をだまし取る詐欺行為であり、犯罪行為を行っているのです。
そういう歯科医院にかかることは、犯罪行為に加担することになるのですから、厳に慎みましょう。 しかしもし歯医者が「検診したら病気が見つかったから、保険診療で治療した」と言い張って、検診と歯石取りを行ったらどうでしょう?このような行為を行わせないために、「傾向診療の禁止」があるのです。
傾向診療とは、特に主訴が無い人を検診したら病気が見つかった、ということを指します。これが認められると、定期検診の禁止が有名無実化してしまいます。このため保険診療において禁止されているのです。 保険医療機関における保険外診療でもっともよく行われているのが、詰め物、被せ物の保険外診療でしょう。「保険だと被せ物が銀歯になるけど、保険外なら白い歯(セラミック)を入れることができる」と、なかば患者を恫喝して保険外診療を売り込む歯医者がたくさんいます。
しかしこれもまた、間違いです。 そもそも、前歯なら硬質レジン前装冠、小臼歯なら強化プラスチックCAD/CAM冠が保険適応です。確かに大臼歯部やブリッジはまだ白い歯は保険適応外ですが、それでも見た目上は保険でも十分に白い歯を入れることが可能です。
強度の問題もかつての仮歯に毛が生えた程度の物よりも、格段に良くなっています。それに平成28年1月からファイバーコアも保険で認められるようになりました。これでますます保険医療機関で保険外の自費診療を売り込む口実が無くなりました。
それに何より、被せ物が長持ちするかどうかを決める最も重要なことは、被せ物の材質ではなく、歯の根の治療が適切に行われているかどうかです。そして保険医療機関においては、歯の根の治療は保険診療で行わなければなりません。
保険医療機関が歯の根の治療を保険外診療として別メニューで提供しているとしたら、これは完全に詐欺行為で犯罪行為です。 歯の根の治療は例えば大臼歯であれば、アメリカの歯内療法専門医(歯の根の治療の専門医)が行った場合、2,000ドルくらいします。しかし日本の診療報酬では9,000円弱でしかありません。
これでアメリカの歯内療法専門医と同等の治療レベルを求める方が間違っています。そしてまた、アメリカの歯内療法専門医が法外な治療費をぼったくっているというわけでもありません。歯内療法というのは、それだけ技術的に難しく、また費用のかかる治療なのです。
ですから保険医療機関で保険外の被せ物を入れ、高額な費用を支払っても、残念ながらそれに見合った治療とは遠く及ばない治療となってしまうのです。単純に同じ金額の被せ物を作ったとしても、保険医療機関と保険外の自費専門医療機関とでは、制作に用いる材料や方法、精度などが全く違います。
保険適応ではない、良質の歯科医療を受けたいと願う人は、保険医療機関ではなく、保険外の自費専門の歯科医療機関を受診してください。 同様に、インプラント治療や矯正治療といった、保険外の高度先進歯科医療においても、決して保険医療機関で治療を受けてはいけません。同様の理由でまともな治療など受けられないのですから。
インプラントを希望するなら保険外専門のインプラント専門歯科医院へ、矯正治療も矯正専門歯科医院へ行きましょう。 しかし日本には、保険医療機関なのに保険外診療でしか使わないような歯科用CT撮影装置や、歯科用マイクロスコープ、レーザー治療機器などを揃えている歯科医院が結構見受けられます。
僕もこういう歯科医院の勤務経験があるからよく知っていますが、こういう歯科医院こそ、保険医療機関の中でも最もかかってはいけない歯科医院なのです。 というのも、保険外診療に力を入れているということは、それだけ本業の保険診療が不振であるということの証拠ですし、さらに高額な歯科医療機器、特に保険では使わない歯科医療機器を揃えるために、高額な出費を強いられているわけですから、当然その分の負担も治療費に上乗せされているのです。そのためこういう歯科医院の自費診療の誘導は非常に強引で、半ば恐喝的ですらあります。
そしてまた、このような歯科医院は裏で訴訟を抱えていることが多く、訴訟費用や示談金もまた、保険外診療の治療費に上乗せされています。全くもって世も末だというほどにひどいのが、こういった保険医療機関なのです。 こういう保険医療機関に多い名前が、「〇〇インプラントセンター」です。
というのも、保険医療機関においては、標榜科目が「歯科一般」、「小児歯科」、「矯正歯科」、「歯科口腔外科」の4つしか認められていません。インプラント治療は経験と技術が乏しい歯科医師が患者からぼったくるのに最も簡単で有効な治療ですから、無能な保険医ほどインプラントを勧めたがります。しかし保険医療機関では「インプラント」と標榜することができません。
このため歯科医院の名前に「〇〇インプラントセンター」と銘打つことによって、自院のインプラント治療をアピールしているのです。 保険外の自費専門の歯科医院であれば、このような回りくどいアピールなどしなくても、インプラントをやっている旨を堂々と標榜することが可能です。ですからわざわざインプラントセンターなんて名乗ったりはしないのです。
ですからインプラントセンターと名乗っている所は100%ヤバい歯医者だと思って間違いないでしょう。 皆さんがもし歯科医院を探しているのであれば、このような知識を歯医者選びの参考にして下さい。それでもなお、治療に救いは無いことを悟るべきです。
病気になってから救われようとしても、誰も救えないし、僕も救えません。そうであるのなら、病気になってから治療を求めるより、病気にならないように日頃の生活を改めることの方がよっぽど重要です。日本の歯科医療に救いが無いことがお分かりいただけたなら、予防の大切さもまた、よく理解してもらえることでしょう。
本当の日本を取り戻すメール新聞
歯科医、稲毛エルム歯科クリニック院長 長尾周格

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